グッド・バイ(完結編)
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・困惑(三) 例のぬらつく部屋に、田島は悲壮な顔で上がった。ああどうか金毘羅様、ここにあって下さい。さもなくば僕はもう生きれません。信心なんて…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・困惑(二) キヌ子は包帯とガーゼを取ってきて、田島に渡した。もちろん、差し出さるるは右手。 「2000円に負けてあげるわ。」 「高すぎる、そん…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・困惑(一) 「あら、田島さんじゃないの。」 ドアから顔を覗いてキヌ子が言った。田島は右手を抑えてウグググと気味の悪い声を出しながら蹲っていて…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・迷走(四) キヌ子のアパートまで一目散と行きたいところだが、田島が人通りのある往来を走れるわけない。あははは、あの人は、あんなに急いで、何か…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・迷走(三) ないわけない。田島は浮ついたまま金庫を探した。いやいや、よく見ればその辺に転がっていて、なあに見逃しているだけさ。自分に言い聞か…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・迷走(二) 田島は「オベリスク」の仕事にここ数日精を出している。闇屋からはもう足を洗う。そう決めた。お金はもう十分。闇はもうたくさん。これか…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・迷走(一) 参宮橋から代々木方面へ、通りを男が歩いている。早い春の夕方、風も冷たく通りを歩く人達の外套もまだ見目重い。黒に焦げ茶色に、カーキ…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・ 誘惑(四) 「あのですね、えっと、君ね、人間には心がないと言うんですか。」 田島はややギクシャクとして聞いた。キヌ子と話なんてしても、これは…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・誘惑(三) イヒヒヒ、これはお金も掛からないし、上玉。と田島は思い、その後、戸崎さんと進んで懇意になった。戸崎さんは、田島が文士先生連中から…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・誘惑(二) 耐えた。よし。快勝。バンザイ。田島は、涼しい美人の酒場を、無事あとにした。これが、真人間の生き方だ。妻も、子も、父がこんな精神の…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・誘惑(一) 作戦が、良くなかった。初老文士の冗談を、意外に名案なんて藁に縋ったのが悪かった。馬鹿。涙は、もうたくさん。サヨナラは、もうたくさ…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・コールド・ウォー (四) 「お見舞いに持っていった饅頭を、あなたが食べて、意地汚いケチね、いつも。」 帰りに入った蕎麦屋で、キヌ子が鴉声を出し…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・コールド・ウォー (三) ケイ子の兄は、予想以上の大男であった。これでは、いざという場合に、キヌ子の怪力も通用しないのではないか。田島は不安…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・コールド・ウォー (二) こうなったら、とにかく、キヌ子を最大限に利用し活用し、一日五千円を与える他は、パン一かけら、水一ぱいも饗応せず、思…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・コールド・ウォー (一) 田島は、しかし、永井キヌ子に投じた資本が、惜しくてならぬ。こんな、割の合わぬ商売をした事が無い。何とかして、彼女を…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・怪力 (四) 「ピアノが聞えるね。」 彼は、いよいよキザになる。眼を細めて、遠くのラジオに耳を傾ける。 「あなたにも音楽がわかるの? 音痴みたい…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・怪力 (三) 田島は、ウイスキイを大きいコップで、ぐい、ぐい、と二挙動で飲みほす。きょうこそは、何とかしてキヌ子におごらせてやろうという下心…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・怪力 (二) 「あそびに来たのだけどね、」と田島は、むしろ恐怖におそわれ、キヌ子同様の鴉声になり、「でも、また出直して来てもいいんだよ。」 「…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・怪力 (一) しかし、田島だって、もともとただものでは無いのである。闇商売の手伝いをして、一挙に数十万は楽にもうけるという、いわば目から鼻に…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・行進 (五) セットの終ったころ、田島は、そっとまた美容室にはいって来て、一すんくらいの厚さの紙幣のたばを、美容師の白い上衣のポケットに滑り…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・行進 (四) キヌ子のアパートは、世田谷方面にあって、朝はれいの、かつぎの商売に出るので、午後二時以後なら、たいていひまだという。田島は、そ…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・行進 (三) 田島は敵の意外の鋭鋒にたじろぎながらも、 「そうさ、全くなってやしないから、君にこうして頼むんだ。往生しているんだよ。」 「何も…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・行進 (二) 馬子にも衣裳というが、ことに女は、その装い一つで、何が何やらわけのわからぬくらいに変る。元来、化け物なのかも知れない。しかし、…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 ・行進 (一) 田島は、やってみる気になった。しかし、ここにも難関がある。 すごい美人。醜くてすごい女なら、電車の停留場の一区間を歩く度毎に、三十人くらいは発見できるが、すごいほど美し…
(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 ・変心 (二) 田島は、泣きべその顔になる。思えば、思うほど、自分ひとりの力では、到底、処理の仕様が無い。金ですむ事なら、わけないけれども、女たちが、それだけで引下るようにも思えない。…
前回の投稿に「fridge」という短編小説を載せ、それは太宰治「令嬢アユ」へのオマージュみたいなものでもあると書きました。そして「こういういかにもな文体で何かを書くことはもうないと思う」と書きました。 「fridge」を書いたのは15年以上前のことで、…