2016-04-01から1ヶ月間の記事一覧

連載小説「グッド・バイ(完結編)」26

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・困惑(三) 例のぬらつく部屋に、田島は悲壮な顔で上がった。ああどうか金毘羅様、ここにあって下さい。さもなくば僕はもう生きれません。信心なんて…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」25

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・困惑(二) キヌ子は包帯とガーゼを取ってきて、田島に渡した。もちろん、差し出さるるは右手。 「2000円に負けてあげるわ。」 「高すぎる、そん…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」24

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・困惑(一) 「あら、田島さんじゃないの。」 ドアから顔を覗いてキヌ子が言った。田島は右手を抑えてウグググと気味の悪い声を出しながら蹲っていて…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」23

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・迷走(四) キヌ子のアパートまで一目散と行きたいところだが、田島が人通りのある往来を走れるわけない。あははは、あの人は、あんなに急いで、何か…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」22

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・迷走(三) ないわけない。田島は浮ついたまま金庫を探した。いやいや、よく見ればその辺に転がっていて、なあに見逃しているだけさ。自分に言い聞か…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」21

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・迷走(二) 田島は「オベリスク」の仕事にここ数日精を出している。闇屋からはもう足を洗う。そう決めた。お金はもう十分。闇はもうたくさん。これか…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」20

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・迷走(一) 参宮橋から代々木方面へ、通りを男が歩いている。早い春の夕方、風も冷たく通りを歩く人達の外套もまだ見目重い。黒に焦げ茶色に、カーキ…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」19

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・ 誘惑(四) 「あのですね、えっと、君ね、人間には心がないと言うんですか。」 田島はややギクシャクとして聞いた。キヌ子と話なんてしても、これは…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」18

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・誘惑(三) イヒヒヒ、これはお金も掛からないし、上玉。と田島は思い、その後、戸崎さんと進んで懇意になった。戸崎さんは、田島が文士先生連中から…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」17

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・誘惑(二) 耐えた。よし。快勝。バンザイ。田島は、涼しい美人の酒場を、無事あとにした。これが、真人間の生き方だ。妻も、子も、父がこんな精神の…