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スケートボード

 妹に二人目の子供が生まれ、お宮参りがあったので行ってきました。
 神社に僕がスケボーで現れたので、母親は「またこの人は、、、」という表情でいくつか質問してきた。

 「こんなの道で乗っていいの?」
 「具体的には法律がないから悪質じゃなかったら捕まらない」

 「危ないんじゃないの?」
 「小学生の時から乗ってるから自分の足で歩くのとほとんど変わらない」

 「ふーん。車の中に入れてきて、早く(向こうのご両親達が来る前に恥ずかしいから車に隠してきて)」

 僕は小学生の時からスケートボードに乗っている。映画Back to the futureを見た後にすぐ買って貰った。
 当時のスケートボードは、いわゆる第3世代スケートボードで、今見かける第4世代の板とは全然違った。なんというかもっとがっちりした作りで、前後も決まっていて自由度が低かった。こんな板では平地でのオーリー(ジャンプ台なんか無しに平地でジャンプすることです)はたぶん不可能だろうし、随分不便なスケボーだったわけだけど、まだ、やっとポリウレタンのウィール(タイヤのこと)を使うようになった第2世代の板も混在していた当時、小学生の僕たちはオーリーなんて知る由もなく、これは全く不思議なことなんだけれど、どこで覚えたのかチクタクや、プッシュでその辺りを走り回るだけだった。地面に足を着くプッシュではなく、両足をボードの上に乗せたまま前に進むチクタクを覚えたとき、僕は感動してしまい、その推進原理を詳しく日記(先生あのね)に書いた。

 中学生になると、スケボーはもう唯の子供のおもちゃにしか見えなくなって全然乗らなくなる。それでも相変わらずBack to the futuerに憧れのあった僕はホバーボードを作れないかと思い立ち、映画の様に本当に”浮かぶ”のは無理だけどホバークラフトみたいなものならできるかもしれないと、早速スケボーのタイヤを外した。それから、家の掃除機を分解してモーター部分を取り出し(家には2個掃除機があったから大丈夫!怒られたけれど)、スケボーの真ん中に大きな穴を開けてそれを取り付けた。それから板と地面の間に空気を閉じこめる為のスカートを取り付ける。ホバークラフトという乗り物は、ヘリコプターの様に下に向かって空気を噴出することで浮かんでいるのではなくて、スカートと地面の間にできる「空気の漏れ出る隙間」分浮かんでいるだけのお手軽なシステムなのです。
 結果的に、僕のホバーボードは乗って進むとは程遠いものに終わりました。
 そして我が家は掃除機を一台失い、僕はスケートボードを失った。

 スケボーなんてすっかり忘れていた高校生の頃、日本に第4世代のスケートボードが入ってきた。
 そして、友達が「これ、なんかすごいんだけど」と言ってビデオを見せてくれた時、初めてオーリーを見た僕は言葉を失った。

 それはもう全く次元の違うスケートボードの乗り方だった。
 オーリー。
 スケボーの上に立ってジャンプしたら一緒にスケボーまで飛び上がるなんて魔法にしか見えなかった。足と板がつながっている訳じゃないのに。どうして板まで飛び上がるのだ?
 そしてオーリーが可能にした様々なトリック。障害物に飛び乗ったり。それまで、プッシュ、チクタク、マニュアル、自転車や車
で引っ張って貰う、台風の日に傘を持って乗り風で進む、坂道を下る、程度の2次元的な遊びしかしたことのなかった僕にとって、板をクルクル回しながら障害物を飛び越える3次元的な動きは奇跡にしか見えなかった。

 僕たちは第4世代のスケートボードを買った。何年振りかに乗るスケートボード。前世代のものより遙かに自由に近い足触り。
 当時はまだインターネットなんてなくて、田舎には新世代のスケボーの本もなくて、僕たちは友達のビデオを繰り返し何度も何度もスローやコマ送りで見て分析し、やっとのことでオーリーを跳べるようになった。まだまだ低いけれど、でも板は地面から離れるようになった。
 それは実に感動的なことだった。そんなことができるなんて夢にも思わなかったことを、先人のビデオで知り、それを実際に自分が習得すること。僕のそれまでのどの達成よりも刺激的な達成だった。

 二人がそれなりのオーリーを飛ぶようになり、しばらくすると情熱は失われていった。もともとスケボーに乗りたがる人が他にいなくて、いつも2人で遊んでいたのだが、彼がバンドとバイクに重心をシフトすると、僕は一人でスケートするしかなく、自分も段々と乗らなくなった。
 スケボーに乗っていると「変な人」「悪い人」だと思われることが多いのも、その頃は結構気になって、大学生の間はほとんど乗らなかった。

 久しぶりに乗ったのは、数年前、実家の玄関に転がって埃を被っていた板がなんとなく目に留まり、自分のアパートへ持ち帰ったときだ。夜の公園へ行って乗ってみると、久しぶりの、地面の上を滑る感覚がとても気持ち良かった。
 それでも実際にどこかで乗ることはほとんどなくて、また良く乗るようになったのは最近ウィールを柔らかなものに、静かなものに変えてからのことだ。歩きなれた道が再び公園に見える。

スケートボーディング、空間、都市―身体と建築
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