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 もう随分前のことですが、あるブラジル料理店で夜ご飯を食べていると、マスターとカウンターに座ったお客さんの会話が聞こえてきた。どうやらマスターは経済学で博士号を持っているらしく、それを聞いた客がなにやら株の話を持ちかけた。すると驚いたことにマスターは「株で絶対儲ける方法ってあるよ」と言い出して、僕は友達と話ながらびっくりして、どういう滅茶苦茶なことを言うのかとそれを聞いていた。

「絶対に売らないこと。ずっと、上がっても下がっても売らずに買い続ける。経済って波があるから、一旦下がってもまた上がってくるから。それでずっと長い間持ってたら、何十年に一回かくらいは急に上がることがあるから、そのときに売ってしまう。そうしたら家くらいは簡単に建つよ」

 もちろん、こんな話は滅茶苦茶だ。というか、単純に何のことを言っているのかというとこれは銀行にお金を預けておけば利息が付くということにすぎない。

 経済学的には、銀行にお金を預けるというのは「銀行にお金を貸す」ということだ。だから利息が付くのは当然のこと。
 直感的にも明らかなように、今目の前にあって今使うことのできる1000円は、今は目の前になくて使えないけれど1年後に貰える1000円というのよりずっと価値がある。その「一年間の使用不可能」というのをお金に換算して上乗せしたのが利息分です。

 別にお金を貸す相手が銀行でなくても、企業に貸したって同じだ。株を買うというのはその企業にお金を貸すということだし、ずっと株を売らないというのはずっとお金を貸し続けるというのと同義だ。だから、大きな元金を何十年も貸していたならそれなりのお金が上乗せされて帰ってくるのは当然の帰結だし、それば厳密に言えば儲かったということではなく「何十年もそのお金を使うことができなかった」ということに対する穴埋めでしかない。
 さらに、その会社が倒産しないという保障はどこにもないわけだから、「ずっと株を売らない」ということには大きなリスクが付きまとう。

 カウンターのお客さんは感心して話を聞いていたけれど、お金の話なんてほとんど全部胡散臭いということがどうして分からないんだろうかと思う。僕達は限られた資源をみんなで分け合って暮らしているというのに。