paint it blue

 屋根にサーフボードを積んだ青い車が、僕の隣を追い越して行く。

 街中を真っ青に染めてやろうと思った。

 暑くて暑くて、でも高い高い夏の太陽と青い青い空と真っ白く湧き上がった雲は美しくて、樹々は深く涼を落とし。悪い気はしない大好きなんだ常夏の楽園ベイビー。
 眩暈のような熱射はアスファルトの所為さ、道行く車とか。
 それからビルディングのコンクリートのヴォリュームが。
 排気ガス。室外機排熱。彼らの呼気。なにより彼らの言葉。

 暑苦しい都市を作り上げて暑苦しい服を着て莫大な電力のエアーコンディショニングを頼りに暮らすのはマッチポンプどころじゃありません。
「ほら、昔よくあったじゃない。クイズみたいなので。冷蔵庫を開けっ放しにしておいたら部屋中涼しくなりますか?って」
 答えはもちろん涼しくなんてならないし冷蔵庫が使う電気の分だけ部屋は暑くなる。
 街はどんどんと暑くなる。
 街はいつでもパレードさ。
 それで、やっぱりさ、

 街中を真っ青に染めてやろうと思った。

 って、あいつ言ってたんだよ。
 プールみたいな青と、もっと深いマリンブルーと、そういうのの絵の具をありったけの貯金とカードで買って、飛距離20メートルだか30メートルだかの、背中にタンクを背負うでかい水鉄砲に入れて街に出たって。道路も壁も何もかも片っ端から。車も自転車も人もお構いなしさ文句言われたら水鉄砲じゃない鉄砲で撃てば永遠に黙るってさ。ただ、赤が混じると紫になって困るんだ、
 って、あいつ言ってたんだよ。
 犬がやって来て、喜んで水鉄砲に射たれようとするから、絵の具はやめて真水にしてやって、犬は大はしゃぎでベチャベチャ飲むから、あいつ根はいいやつでコンビニ入って六甲のおいしい水を買ってきて犬にやったってさ。
 
 その街では青くないのは犬と街路樹だけ、ということだった。
 鉱石ラジオの向こうから微かに聞こえてくるジャズという音楽を敵国のだって怒られないようにこっそりと聞いていた夜に僕達が綿密に立てた計画のこと。ついでに覚えた I can speak English, actually very fluently. So you can tell me everything. Everything. Now! What did happen at that night? Don't know, well,I see, then get him, get him dead or alive.

He's kinda sought-after.

 夜の帳が大地を闇に包み
 あるのはただ月明かりだけで
 けれど怖くなんてないさ
 君が傍にいてくれるなら

 and darlin', darlin', stand by me,
oh now now stand by me
stand by me, stand by me

 ここから一歩も通さない
 理屈も法律も通さない
 誰の声も届かない
 友達も恋人も入れない

 手がかりになるのは薄い月明かり

 満月を見上げて、水鉄砲はやめにしたんだって。
 月があの街を青く浮かび上がらせる。
 犬が耳を畳んで眠っていた。
日曜日よりの使者の詩―甲本ヒロト全詞集
甲本 ヒロト
ジービー


バンドスコア ザ・ブルーハーツ/ベストコレクション (バンド・スコア)
ドレミ楽譜出版社