韓国式

 Pがビール瓶を持ち上げ、栓のすぐ下を左手でギュッと掴み、栓と人差し指の付け根の骨の間に割り箸のお尻を差し込んだ。それから割り箸の中程を右手で叩くときれいに栓は弾き飛んだ。

「わー、すごい!!!」
「コリアンスタイル!!!、クール、わぉ!」

 Cが韓国へ帰る前夜だったので、昨日、韓国人の子がチヂミを焼いてくれて、人が部屋に入りきらないので、コタツを二個積み上げて高いテーブルにし、立食パーティーが開かれた。思い思いのものを持ち寄って人が集まった頃、じゃあビールの栓を抜こうとなったが栓抜きがない。誰かが部屋から取ってくると言い、僕はポケットからレザーマンを出そうとした。だけど、韓国組は至って平気な顔で「割り箸があるから大丈夫」と言う。みんなが興味深々で見ているとPが栓を綺麗に弾き飛ばしたというわけだ。

 狭い部屋に押し込まれてするパーティーは話が弾む。
 化学の研究者であるLに量子コンピュータのことや物理のことを話していると、どんどん突っ込まれて英語も回らなくなって来て自己嫌悪に陥る。彼の奥さんが助け舟ではないが、日本語のいくつかの言葉はポルトガル語でセクシャルな言葉だから可笑しくて仕方ないと言う。「ございます」が丁寧だと習ったけれど、ゴザイというのはポルトガルでは○○だし、ヨガ教室に行ったら「ピンと伸ばして」と何度も言われたけれど、ピントはポルトガル語では〇〇だから可笑しくて可笑しくて、というような話。

 丁度、韓国人達が何の話か電話をきっかけにしてポッポというので、何かと聞くとキスのことで、すかさずMがポッポというのはスペイン語では幼児語でウンコのことだよ、と言う。

 今日の早朝、K君は旅行で台湾へ、Mは帰国前の旅行でフィリピンへ、そしてCは帰国で韓国に関空から飛んで行った。
 Cは1年間一緒に過ごしたメンバーなので少し感慨深い。

 先月はこれも1年一緒にいたSが台湾へ帰っていった。1年共に過ごしたメンバーがいなくなるのは結構寂しいことだ。CもSも、1年前の春にまだみんな来たばかりで友達もいなくて、すれ違ったそういう人々で高台寺へ行った時のメンバーだった。昨日のことのように覚えている。

 1年と言えば、先日高校生と留学生合同のお茶会が寮のロビーと茶室であったけれど、このお茶会も丁度1年前、僕がここへ来てすぐに参加したものだった。

 窓のすぐ外の木は枝に新芽を膨らませて、ヒヨドリがこれでもかと毎日つついている。こんなに新芽が食べられて、木は大丈夫なのだろうかと見ていたら、ヒヨドリの啄んだ新芽は、丁度固い外皮がなくなって、中から眩い黄緑色を覗かせていた。もしかすると以外にヒヨドリは芽を出す助けになっているのかもしれないなと、ぼんやり思う。
 
韓国現代史 (岩波新書)
文 京洙
岩波書店


「ファインマン物理学」を読む 量子力学と相対論を中心として
竹内 薫
講談社