dies faustus.

2008年10月25日土曜日

 T夫妻の結婚式。結婚式に行くといつも胸の中が変な風に一杯になってうまく話したりできないのだけど、この日はさらに変な感じがして、どうしてか考えてみるとそれは特にTが僕の日常に近いからだった。今まで僕が出席した結婚式というのは友人親戚を含めてほとんど全て「親しいけれど日常からは離れている人」のものだった。旧友だけど今は遠くに住んでいて1,2年に一度しか会わないとか。だから「久しぶり」という挨拶と結婚式が僕の中ではワンセットになっていた。
 でも、Tは自転車で10分くらいの距離に住んでいて月に1,2回は遊ぶわけで、先日まで独身で冗談を飛ばしていた友人が今日は目の前で比較的かしこまって式を挙げている。そういうのは僕にとってはじめてのことだった。変化がゆっくりとしていて、ともすれば永遠に続くのではないかと思えるような日常が、遅くてもなんでも確実に変化を伴っているのだということを感じる。

 日常という言葉を使い続けるなら、式自体は特別な仕切りがなく始まって、Tも飄々としているし、祝福される者と参列者との距離、あるいは日常と非日常との距離が近いものだった。2,3日どっしりと降り続いた雨もすっかり消え失せて、なんていうかチャーミングな結婚式。

 披露宴は通知されていた通り僕だけベジタリアンコース。何故か豆腐ステーキみたいなのがハートの形だったりなにかとファンシー。ほとんどの人が初対面だったけれど、さすがTの友達というか、とりあえず全員何かに矢鱈詳しい。
 マグロの解体ショーがあって、巨大なマグロが巨大な包丁でさばかれる。僕はベジタリアンなんて言い出して、動物は友達とか、つまるところやっぱりファンシーなことを公言しているくせに興味深々で見に行く。もちろん、このマグロは刺身になって各テーブルへ運ばれた。僕はベジタリアンということで醤油のお皿がなかった。給仕の女の子に「僕もマグロ食べたいです」と言ってお皿を貰い半分似非ベジタリアンであることを知られてしまう。きっと僕のベジタリアンメニューを作ってくれたコックさんは動物性のものから出汁すらも取らないようにしてくれたと思うのにマグロの刺身をパクパク食べるなんて。

 さらに2次会では肉の入ったパスタもムシャムシャ食べておいしかった。
 場所をアメリカ村に移して行われた2次会は、もう少ししたらあの人とも話してみようかと思っているうちにあれよあれよという間に終わってしまい、せっかく70人だか80人だかの人が集まっていたのにもうすこしテキパキ社交をすれば良かったかなとも思う(気がついたら後10分で終わりだった)。でも、僕は披露宴もいいけれどやっぱり二次会っていいなと変な感慨に浸っていて、司会者そっちのけに本領発揮の感でマイクを握るTを嬉しい気分で眺めていた。

 3次会の途中で最終電車を狙って帰る。本当は最後までいても良かったし、ちょうど話もこなれて来たところだったので帰りたくはなかったけれど、ここには書かない複雑かつ軟弱な理由で帰った。
 ぎりぎりまで長くいたかったので、携帯で調べてあった終電時刻よりも、自分の記憶を頼りにしてより遅くまでいれるプランを取ったところ、記憶違いというか、さらに京阪も新しく伸びていて良く分からなかったので京都までは帰れず京阪八幡で電車が終わる。そういう人を狙ったタクシーが駅前には列をなしていて、出町柳まで帰るという知らない人と割り勘をしてタクシーに乗る。

 アパートからは少し離れているけれど三条京阪でタクシーを降り、鴨川沿いを少し歩いて御池を通り部屋に戻る。京都というのは間違いなく僕にとって特別な場所になっているなと思う。それからこの辺りは間違いなくスペシャルだ。
 この日は目まぐるしく沢山のことを考えた。身近な友達が結婚したということと、噂に聞いていた人々が集まって祝宴を開くこと、それから自分がそこに居合わせることや、自分が置かれている環境とか。
 未来というのはいつも明るい。