log N.

 係数と底は本質的ではないので無視して、Nビットの情報を消去するためにはlogNのエネルギーがいる。情報というのをあくまで仮想的な、何か実態のないものだと捕らえる人が多いと思うけれど、本当は全然そうではない。情報は物理的な実態を伴うものでほとんど物理量だと解釈しても構わない。逆にあらゆる物理現象は情報のやり取りだと見なすことができるので、情報という観点から物理学を組み立てなおしている研究者もいる。たとえばブラックホール周辺の理論は情報理論に基づく部分が大きい。そして話をもう一度ひっくり返すと、量子情報処理の大御所Seth Lloydはブラックホールというのは最も理想的な量子コンピュータだと解釈する。というかむしろ彼はこの宇宙というものがそれ自体巨大な量子コンピュータであると解釈していて、僕は基本的にその見方に賛成だ。

 どうにもしっくり来ない人は今僕達が使っているコンピュータのことを考えてみればいい、僕たちは主に電圧の高低という物理量を利用して論理回路を組み、計算機を動かしている。その昔手回し式の歯車で動く計算機があったように、ロジックさえ組めれば利用する物理的実態は別に何だって構わない。MITのある学生グループは子供用の木と紐からなるブロックのおもちゃを利用してコンピュータを作ったりしている。
 僕達がコンピュータを作るということは、あくまで自然法則の一部をうまく利用するということでしかない。当たり前だけど物理学の法則から外れた動作を見せるコンピュータというものはこの世界に存在しない。ならば、僕達が利用している自然法則それ自体であるこの巨大な宇宙をそれ自身がコンピュータであるという見方だってできる。

 外食や買ってきたものですませるのではなく、自分で料理をして部屋でご飯を食べると、実際のところそれはそれで問題も発生する。食べた後、満腹になって、さらに変な満足感も加わって眠くなり寝てしまうということだ。だからご飯を9時に食べると9時にうっかり寝てしまうことになる。そして12時くらいに目を覚まして、眠い目をこすりながらどうにかお風呂に入ると、もう目はすっかり醒めきって今度は眠りに着くことができない。
 そうして僕はめずらしく眠れない夜というのを過ごしていたのですが、そのときに情報とかエントロピーとかの観点から捕らえると僕達の意識というのはどう見えるのだろうと思った。
 いつも書いているのであれですが、僕達の意識が存在できるというのは超常現象です。深部までメスを入れることは科学の枠組みでは不可能にみえる。でもまあちょっとだけ意識はエネルギーを消費するのか、エントロピーはどうなっているのかを考えてみると何か分かったりもするかもしれないなと、これは前から思っていたのですが、それを昨日の夜中に思い出しました。

 もしも人間Aさんと全く同じように情報を処理して機能する、つまり見かけは意識のあるAさんと見分けのつかない(チューリングテストをクリアする)意識のないニンゲンAさんというものがいたとして、人間AさんとニンゲンAさんが全く同じ状況で全く同じ振る舞いをしたとしたら、そのとき人間Aさんの消費エネルギーとニンゲンAさんの消費エネルギーはどれくらい異なるのでしょうか、それとも同じなんだろうか。もしも同じだとしたら意識の動作にはエネルギーが要らないことになる。

 熱力学第二法則によってエントロピーが増大する一方であるはずのこの宇宙で、僕達生命現象はまるでエントロピーの散逸を防いでいるようにも見える。エントロピーが増えるとか減るとか、エネルギーがいるとかどうとかいうのは根本的には同じ話であり、なんとなく生命体が生命体を維持できることと意識を持つことはかなり近しいところにあるのかもしれないなとも思う。僕達は放っておけば壊れ行く体を意識でもってご飯を食べたりして壊れないように保っている。意識はエントロピーの増大を防ぐことができる。そのかわり意識が働くこと自体がべつのところでエントロピーを増やしているのかもしれない。だとすると植物も単細胞生物も含めたあらゆる生き物が濃度はどうであれ意識を持っているのかもしれないなとも思う。でも、意識を持たないロボットに事故修復機能と充電機能を持たせることもできるからそうとも限らないか。
 まとまらない話ですが、本当に訳の分からない宇宙だなと思います。