寝屋川。
結膜炎にかかってしまいました。右目が真っ赤です。たぶん生まれて初めてかかったように思う。眼科へ行くと「人にうつさないように気をつけて下さい」と言われて、お金を払うときなんかやけに気になる。この人のお金触ったらうつるかもしれないな、なんてやっぱり思うんだろうな。それにしても僕はどこで感染したんだろう。
実際のところウィルス性結膜炎の感染力は弱くはないみたいなので気をつけなくてはならない。幸いなことに研究室はOと二人なので、まあお互いが気をつければうつることもないだろうと、Oに結膜炎にかかった旨を告げる。結膜炎なんて英単語はもちろん知らないので辞書で調べて使うと(conjunctivitisだそうです)、Oも別にネイティブ英語話者ではないので何のことか分からない模様。
直るまで1週間はかかるということで、その間僕はあまり出歩きません。
僕は非常に苦手でなんのことだかさっぱり分からないけれど、物理学には統計物理というジャンルがあります。ジャンルというか、統計的な見方はあらゆる場面で要求される。たとえば気体を扱うとき、ちょっとした体積の中にも分子は10の数十乗個あるわけで、その全ての分子について運動方程式を書き出し計算することは
不可能です。それに、そのような理解の仕方は人間の脳が処理できる情報量をはるかに超えています。10の数十乗個の粒子の動きを同時にイメージすることなんて普通はできません。
だから、一つ一つの粒子に着目するのはやめて全体でどのような振る舞いをするのか考えたものが統計力学で、天才的な概念がたくさん使われています。多粒子系のいろいろな現象を説明し、その振る舞いを予測することができる。
科学という手法を、とにかく細かく切り刻んで原因を調べるものだ、と思い込んでいる人にときどき出会いますが、科学というのはそういうことではありません。細部にこだわらなくても、全体で物事を考える事だって多々あります。
したがって、僕は以下の津田敏秀教授が行われた調査結果は「科学的にプラスチック処理工場と寝屋川病の関係を洗い出したもの」だと言って構わないと思います。もちろん調査方法の細かいことを何もしらないのですが、その辺りは津田教授をひとまず信頼することにします。
長いですが、毎日新聞からの引用です。
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寝屋川病の行方:/中 廃プラ工場近くで体調不良多発 /大阪
◇「痛い」「かゆい」「苦しい」
湿しんの発症12・4倍、のどが、いがらっぽい5・9倍、目が痛い5・8倍、皮膚がかゆい4・3倍、イライラする3・6倍、たんが出る3・0倍、息苦しい2・3倍……。
06年夏、岡山大学の津田敏秀教授(環境疫学)らが寝屋川市の廃プラスチック処理工場周辺で、住民1579人を対象に健康調査票を配布。結果を統計処理すると、工場から700メートル以内に住む住民は、2800メートル付近の住民に比べ、ほぼすべての項目で体の不調を訴える割合が高かった。
調査では▽1年前に比べて症状がある人が増えた▽工場に近いほど発症しやすい▽昼間に在宅している住民ほど発症しやすい−−ことなども判明。住民が訴えてきた被害の実態が、数字の上でも裏付けられる結果となった。
調査の性格上、原因物質は特定しなかったが、津田教授らは「住民の症状は、廃プラ工場操業と強い因果関係を示している。性別、年齢、喫煙歴など、他の要因ではまったく説明できない。健康被害を防ぐため、関係機関による早急な対策が必要だ」と指摘した。
× ×
「基準を上回る有害物質は、検出されませんでした」。寝屋川市は先月10日、記者会見を開き、1年間にわたり実施した大気の環境測定結果を公表した。ベンゼンやトリクロロエチレン、ホルムアルデヒドなどが対象だったが、工場周辺と府内の他地点とで特に差は観測されず、事実上の「安全宣言」となった。
4市やリサイクル・アンド・イコール社(RE社)は訴訟の中で「反対派住民が調査票の配布・回収をしており、先入観がかかっている」「代筆かどうかの区別もない」「操業に対する嫌悪感などの心因でも十分説明がつく症状」などと津田教授の調査結果を酷評している。
ただ、市が今回調査したのはわずか11物質で、二千数百万種とも言われる化学物質の中ではごく一部。また、津田教授らの調査を批判しながら、市は「科学的に実証できる検査手法がなく、必要もない」として、行政として健康実態調査を実施することを拒んでいる。「安全宣言」には、性急な印象がぬぐいがたい。
反対派住民で作る「廃プラ処理による公害から健康と環境を守る会」の牧隆三代表は「市民の健康を守るために動くのが行政の役割なのに、市は偽りの『安全』データの作成に一生懸命。機能がマヒしてしまっている」と話す。住民の嘆きは、どこまで伝わるのだろうか。【平野光芳】
毎日新聞 2008年7月11日 地方版
___________________
(引用終わり)
どうしてこういうことが平気で起こるのか僕には理解できません。
僕はあまりニュースを知らないせいか、ついさっきまでこのことを知りませんでした。市の対応があまりにも異常なので驚いて引用した次第です。
2千数百万種類のうち11個の物質だけ調査することにはほとんど意味がないし、それから今のテクノロジーでは2千数百種類の物質全部に関してテストすることはできない。ならば答えはもう出ていて、マクロな視点で調査した津田教授の調査結果をもっとも科学的なものとして採用し追試の結果次第では工場を閉鎖するしかない。工場からの距離と症状に相関があるなら、今はそれがもっとも科学的な指針であり、その相関関数に関して再調査を行い再現性を確認する以外にできることもすべきこともない。そしてその相関が再現できたならそれは「科学的に実証されたことになる」。市のコメントにある「科学的に実証できる検査方法がない」というのは大嘘だ。次にするべきことが一つしかなくてそれが明らかなのに何かの議論が行われているというのは、市だかなんだかが単に駄々をこねているというだけのくだらない事態にすぎません。
実際のところウィルス性結膜炎の感染力は弱くはないみたいなので気をつけなくてはならない。幸いなことに研究室はOと二人なので、まあお互いが気をつければうつることもないだろうと、Oに結膜炎にかかった旨を告げる。結膜炎なんて英単語はもちろん知らないので辞書で調べて使うと(conjunctivitisだそうです)、Oも別にネイティブ英語話者ではないので何のことか分からない模様。
直るまで1週間はかかるということで、その間僕はあまり出歩きません。
僕は非常に苦手でなんのことだかさっぱり分からないけれど、物理学には統計物理というジャンルがあります。ジャンルというか、統計的な見方はあらゆる場面で要求される。たとえば気体を扱うとき、ちょっとした体積の中にも分子は10の数十乗個あるわけで、その全ての分子について運動方程式を書き出し計算することは
不可能です。それに、そのような理解の仕方は人間の脳が処理できる情報量をはるかに超えています。10の数十乗個の粒子の動きを同時にイメージすることなんて普通はできません。
だから、一つ一つの粒子に着目するのはやめて全体でどのような振る舞いをするのか考えたものが統計力学で、天才的な概念がたくさん使われています。多粒子系のいろいろな現象を説明し、その振る舞いを予測することができる。
科学という手法を、とにかく細かく切り刻んで原因を調べるものだ、と思い込んでいる人にときどき出会いますが、科学というのはそういうことではありません。細部にこだわらなくても、全体で物事を考える事だって多々あります。
したがって、僕は以下の津田敏秀教授が行われた調査結果は「科学的にプラスチック処理工場と寝屋川病の関係を洗い出したもの」だと言って構わないと思います。もちろん調査方法の細かいことを何もしらないのですが、その辺りは津田教授をひとまず信頼することにします。
長いですが、毎日新聞からの引用です。
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寝屋川病の行方:/中 廃プラ工場近くで体調不良多発 /大阪
◇「痛い」「かゆい」「苦しい」
湿しんの発症12・4倍、のどが、いがらっぽい5・9倍、目が痛い5・8倍、皮膚がかゆい4・3倍、イライラする3・6倍、たんが出る3・0倍、息苦しい2・3倍……。
06年夏、岡山大学の津田敏秀教授(環境疫学)らが寝屋川市の廃プラスチック処理工場周辺で、住民1579人を対象に健康調査票を配布。結果を統計処理すると、工場から700メートル以内に住む住民は、2800メートル付近の住民に比べ、ほぼすべての項目で体の不調を訴える割合が高かった。
調査では▽1年前に比べて症状がある人が増えた▽工場に近いほど発症しやすい▽昼間に在宅している住民ほど発症しやすい−−ことなども判明。住民が訴えてきた被害の実態が、数字の上でも裏付けられる結果となった。
調査の性格上、原因物質は特定しなかったが、津田教授らは「住民の症状は、廃プラ工場操業と強い因果関係を示している。性別、年齢、喫煙歴など、他の要因ではまったく説明できない。健康被害を防ぐため、関係機関による早急な対策が必要だ」と指摘した。
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「基準を上回る有害物質は、検出されませんでした」。寝屋川市は先月10日、記者会見を開き、1年間にわたり実施した大気の環境測定結果を公表した。ベンゼンやトリクロロエチレン、ホルムアルデヒドなどが対象だったが、工場周辺と府内の他地点とで特に差は観測されず、事実上の「安全宣言」となった。
4市やリサイクル・アンド・イコール社(RE社)は訴訟の中で「反対派住民が調査票の配布・回収をしており、先入観がかかっている」「代筆かどうかの区別もない」「操業に対する嫌悪感などの心因でも十分説明がつく症状」などと津田教授の調査結果を酷評している。
ただ、市が今回調査したのはわずか11物質で、二千数百万種とも言われる化学物質の中ではごく一部。また、津田教授らの調査を批判しながら、市は「科学的に実証できる検査手法がなく、必要もない」として、行政として健康実態調査を実施することを拒んでいる。「安全宣言」には、性急な印象がぬぐいがたい。
反対派住民で作る「廃プラ処理による公害から健康と環境を守る会」の牧隆三代表は「市民の健康を守るために動くのが行政の役割なのに、市は偽りの『安全』データの作成に一生懸命。機能がマヒしてしまっている」と話す。住民の嘆きは、どこまで伝わるのだろうか。【平野光芳】
毎日新聞 2008年7月11日 地方版
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(引用終わり)
どうしてこういうことが平気で起こるのか僕には理解できません。
僕はあまりニュースを知らないせいか、ついさっきまでこのことを知りませんでした。市の対応があまりにも異常なので驚いて引用した次第です。
2千数百万種類のうち11個の物質だけ調査することにはほとんど意味がないし、それから今のテクノロジーでは2千数百種類の物質全部に関してテストすることはできない。ならば答えはもう出ていて、マクロな視点で調査した津田教授の調査結果をもっとも科学的なものとして採用し追試の結果次第では工場を閉鎖するしかない。工場からの距離と症状に相関があるなら、今はそれがもっとも科学的な指針であり、その相関関数に関して再調査を行い再現性を確認する以外にできることもすべきこともない。そしてその相関が再現できたならそれは「科学的に実証されたことになる」。市のコメントにある「科学的に実証できる検査方法がない」というのは大嘘だ。次にするべきことが一つしかなくてそれが明らかなのに何かの議論が行われているというのは、市だかなんだかが単に駄々をこねているというだけのくだらない事態にすぎません。