運河。

 そういえば、城というものをきちんと見たのは初めてのことだった。二条城の周りは何度も通っているし、大阪城公園にも何度か行ったことがあるけれど、城というもの自体をそんなに気にしたことはなかった。
 僕達は桃山御陵へ行くつもりで、そろそろ西に傾いた日の光を背中に受けながら斜面を登っていた。そして、気が付くとそこには城があった。死後の王を護る墳墓ではなく生前の王を護った巨大な建築物が、晴れ渡ることだけを考えて作られたような実にあっけらかんとした空の下で午後の日差しを浴びていた。僕はほんの一瞬の間、現実感を喪失した。その造形はあまりにも21世紀の日曜日とはかけ離れていた。I君は「日本じゃないみたいだ」と言い、僕は「今ではないようだ」と思った。致命的に粗悪なセンスで作られたぼんぼりと、公園で散歩をする人々だけが、現代日本を思い出させた。僕は携帯用の超小型三脚を持っていたので、それを使ってOがデジタルカメラで7人全員の入った写真を撮った。もちろん背景は城で、デジタルカメラで城の写真を撮るというのは物凄い長さの時間を包含した行為だと僕は思った。
 途中で合流したYさん以外の全員が、月桂冠の見学で手に入れた日本酒を持っていて、さらに僕を含む何名かはプラムワインを持っていた。その上、城のすぐ手前には盛りを過ぎたものの桜が咲いていて、僕達は日本酒とワインの封を切り乾杯をした。それは4月半ばの日曜日としては上々の過ごし方に違いない。


2007年4月14日土曜日
 Tがランチに誘ってくれたけれど、僕は手巻き寿司パーティーの準備があったので行けない。そのまま電話で30分ほど話す。そういえば本当に久しぶりだった。準備といっても、ほとんどHさんが準備してくれていたので、僕は買出しをHさんと一緒にして、その後はやってきたMちゃんなどに任せきりにしてしまう。僕は酢飯というものがあまり好きではないので、匂いが嫌だと言って離れてお茶を飲んでいた。
 それにしても夜はなかなか暖かくならない。本当は手巻き寿司花見をするはずだったけれど、寒いので軟弱にも室内に変更した。春で環境が変わるせいか、時間の感覚がおかしい。Kさんが「ひさしぶり」と言ったけれど、考えてみれば前回会ったのは3週間前だ。Oさんは肉が食べられないと言っていたわりには生魚を平気で食べるのでやっぱり人の好みというのは良く分からないものだと思った。Oの持ってきた濁り酒を「赤ん坊のゲップみたいな味だ」というとI君に例え方を咎められる。T君は仕事が相当忙しいということだったけれど、いつものびしっとしたスーツではなくてカジュアルな服だった。そのカジュアルな白っぽい服には醤油が零れ、僕の服には(顔にも)Kさんの噛り付いたイクラが飛び散った。

2007年4月15日日曜日
 アパートの向かい部屋に住んでいるSちゃんが「歩いていく」というので、僕も仕方なく出町柳まで一緒に歩く。高野川を下っていくと、とても天気のいい日曜日のせいか人がたくさん歩いていていかにも春めいていた。
 出町柳でI君、Oと落ち合い、京阪で伏見稲荷へ。Mちゃん、Hさんと合流し伏見稲荷を通過し石峰寺へ。若冲の五百羅漢像を目的として訪れたけれど、それよりも寺のこじんまりとしていて家庭的な雰囲気が良かった。公園に犬とウサギがいたので写真を撮っていると近くで遊んでいた飼い主の少年に「ウサギなんて珍しいか」と言われる。「このウサギはすごいいいウサギだよ」と返答する。
 京阪で移動。月桂冠見学。黄桜見学。鳥せいで昼食。商店街を物色。Yさんと合流。なんとか神社。伏見桃山城。

2007年4月16日月曜日
 研究室の後、買い物に出ていつもとは違うお香を買う。焚くと香りは良いけれどビリビリするような気がしたのですぐに消した。臭いのは我慢できるけれど、なんとなく危険な感じの匂いなので全部捨てる。喉と鼻の奥に不快感。

2007年4月17日火曜日
 奨学金の手続きを済ませて研究室へ行くも体がだるい。風邪をひいたらしい。昨日喉や鼻が変だったのはお香のせいではなくて風邪のせいだったのかもしれない。もしくはお香の所為で風邪をひいたのかもしれない。