hi-fi.

 巨大乳頭結膜炎というへんてこな名前の結膜炎があります。
 コンタクトレンズ着用者によく見られる結膜炎で、結膜、つまり目蓋の内側が凸凹になり、それがコンタクトレンズをホールドしてしまうので、まばたきをするとコンタクトレンズが上にずれてしまう。しかもその凸凹が眼球に接触するので特にレンズを外したあとは目が痛い。
 僕はコンタクトレンズを使っていて、何度か眼科へ行っては結膜炎だと言われたけれど、たぶんこの結膜炎だったのだと思う。レンズがずれて良く困った。

 結膜炎はアレルギーで、アレルギーは基本的にタンパク質をトリガーとして起こるので、レンズをきれいにしていれば結膜炎にはならないはずだ。だから僕は一時期コンタクトレンズのケアについて色々と調べてみたことがある。

 その過程でアカントアメーバというアメーバのことを知りました。
 アカントアメーバというのはどこにでも、それこそ水道水の中にも土の中にもいるアメーバで、通常は人体にとって無害です。しかし、それが繁殖して多数になると、ときどき害になることがあり、その最たる温床がソフトコンタクトレンズということです。ソフトコンタクトレンズは含水性であり、スポンジと同じなので、その中でアメーバが繁殖することがあり、眼球が傷付いていたり、何かの感染症で抵抗力がなくなっていたりすると人の角膜の中に入り込む。そうすると目がとても痛くなって角膜がぼろぼろになる上に治療薬はまだ完成していません。当たり前ですが角膜がぼろぼろになると透明度が失われて見えなくなります。アカントアメーバというキーワードで検索を行うとそのあたりの記事はたくさん出てきます。ちょっと見たくないような写真もあるので気をつけてください。

 アカントアメーバのことを知ったとき、僕はどうして今まで誰もこのアメーバのことを教えてくれなかったのかとびっくりした。
 僕は正規に眼科で診察を受けて、コンタクトレンズのお店でコンタクトレンズを買ったのに、誰一人としてアカントアメーバに言及した人はいなかった。ただ、「水道水は使わないでください」というだけで、僕はそれは浸透圧の所為だろうと思っていたのですが、そんなことよりももっと重要なことがあったのだ。水道水には普通にアカントアメーバがいて、そのアメーバは現在主流のコンタクトケアでは死なない。だからコンタクトを水道水につけるようなことはなるべく避けたほうがいい。ワンボトルケアタイプの製品で、説明書に「レンズケースはこの製品ですすぎ洗いをしてから乾かしてください」と書いてあるのはそういうことだと思う。ケースにアメーバが入るのを防ぐ為だ。でもそんなことをしていてはボトルがすぐに空になってしまうし、ほとんどの人は水道水でケースを洗うと思う。
 アメーバの感染力はとても弱いので、通常はそれでも問題がないのだけれど、僕はメーカーはアメーバのことを書くべきだと思う。ワンボトルケアではアメーバは死なないので書かないのだろうけれど、医療用品がこんな適当なハードルで売られていていいのだろうか。

 発表されている、一見科学的なデータにも注意が必要だ。
 たとえば、現在2番目に普及しているコンタクトレンズのケアは過酸化水素水とその中和薬を用いたものですが(コンセプトワンステップ)など、過酸化水素アカントアメーバを殺すことができません。過酸化水素アカントアメーバには無効であるというのは、たとえば医学部の博士論文など企業にコミットしていない率の高い研究の中からも多々読めます。
 だから、アカントアメーバにはこの手の消毒方法は意味がないのですが、それを受けてあるアメリカの企業(過酸化水素方式を販売している)が研究を行い、その成果を発表しています。内容は、「アカントアメーバには効かないけれど、他のばい菌には良く効き、アカントアメーバによる感染症は他のばい菌で角膜が弱っているときにのみ起こっているので過酸化水素のケアは十分に有効だ」というものです。それはそうなのかもしれないけれど、なんともギリギリな感じがしてリスキーな話だと思う。

 コンタクトレンズを扱う前には手を石鹸で洗い、そして水道水で流す。その水道水にはアカントアメーバがいて、主流となっているケア用品ではほとんど死なない。あとで振り返ると間抜けな時代だと笑われるんだろうなと思う。ちょうど僕達が昔の外科手術やなんかを見て、そんな無茶苦茶な、と思うように。

 僕は企業の手先では決してありませんが、アカントアメーバは煮沸消毒か、クレンサイドなどのヨードによる消毒しか有効ではありません。現行のケア方法の中では。ただ、煮沸はコンタクトレンズを傷めるし、タンパク質の固着を起こします。ヨードに関してはまだ歴史が浅くて、それでコンタクトレンズを消毒することにどれだけのリスクがあるのかは良く分かっていません。
 面倒なのでこういうことをあまり考えたくないのですが、でも考えざるを得ないですね。いくつかアルバイトをすれば誰だって知ることですが、残念ながら、利益を上げるために結構な騙し合いが行われていることを、僕は随分たくさん見てきました。