連載小説「グッド・バイ(完結編)」25

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。
   第13回目までは太宰治が書いたものです。


・困惑(二)

 キヌ子は包帯とガーゼを取ってきて、田島に渡した。もちろん、差し出さるるは右手。
「2000円に負けてあげるわ。」
「高すぎる、そんな人をバカにした値段。僕は怪我人だぞ。それも君のせいで。」
「じゃあ、いらないのね。」
「もらいます。」
 田島はケガが苦手。手が痛くてすっかり弱気。
「軟膏もあるけれど、ガマの油とか、もう2000円でどう。」
「えーい、それももらう、この冷血人間。」
「あら、あなたの方こそ、なんだか変に頭に血が上って。冷血の方がずっといいわ。」
「それよりも、ちょっと部屋に上がって、包帯巻いてくれませんか。」
 キヌ子が入れてくれないので、田島はまだドアの外。
「駄目よ。」
「駄目とはなんだ、怪我人に対して失礼じゃないか。包帯も自分じゃ巻けないし。僕は右利きだ。」
 お金も盗まれて、手も痛くて、もう言っていることがおかしい。
「包帯なんか犬でも口で巻くわよ。押しかけて来たくせに。」
 待てよ。部屋に入れないなんて。ますます怪しい。
「いや、部屋にはあがらせてもらう。断じて。これは、事件の捜査だ。」
「変な言いがかりつけて上がり込もうなんて、そうは行かないわ。上がりたいなら1万お出し。」
 こんな汚い部屋に上がるのに1万。ネギ1本でも買うほうがまし。しかし田島、追い込まれていて必死だった。
「よし、じゃあ、上がって何も無ければ1万払ってやる。もしも、金庫があったら、見てろ。」
「じゃあ、どうぞ。私も、あなたみたいな大根頭に言いがかり付けられたままじゃあ、うす気味悪くって昼寝もできないし」
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