読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

西海岸旅行記2014夏(24):6月12日:サンフランシスコ、黄色い蛇と黒い鳥

西海岸旅行記

 "Chez Panisse"は、一見普通の家みたいに小さな間口の店だ。グーグルマップの指示に従って車を走らせ、店の前まで来たものの周囲に車を駐められそうなところは見当たらなかった。道路の両サイドは駐車スペースになっているのだが、びっしりと車が駐まっていて入る余地がない。店の周囲を何ブロックがグルグル回ってスペースを探してみたけれど、どこもかしこも車で最充填状態になっている。仕方がないので、申し訳ないけれどセーフウェイの駐車場に車を駐めた。セーフウェイというのはアメリカ中にチェーン展開しているスーパーマーケットで、ここには広い駐車場があった。
 アメリカは大きな国だし、車社会だから、もっとどこへ行っても駐車場には困らないと思っていたけれど、実際には、都市部や観光地では駐車場を探してウロウロしたりもしなくてはならなかった。たくさんの車が特定のエリアに押しかけてくるのだから当然といえば当然のことか。

 "Chez Panisse"は客の年齢層が高く、僕達よりも若い人はいなかった。年配の人達が本当に食事を楽しみに来ているという雰囲気がある。ただ、ここも店が狭い割に人をたくさん入れすぎている。建築空間の持つキャパシティをオーバーしていて、微かな居心地の悪さが圧迫してくる。料理は申し分なく美味しい。ただ、僕はやっぱりこのランチ遠征の件で少し機嫌が悪くて、ここの2人で百何十ドルかしたランチはクミコが奢ってくれた。

 バークレーは、ベイエリアにあっても先進的と言われる都市だ。なんといってもヒッピームーブメントの起源となる街だから、今思えば少し見物しておくべきだった。街の雰囲気もとても良かったし、コンピュータサイエンスの雄、カリフォルニア大学バークレー校もある。今更だけど、そうか、ポートランドじゃなくてバークレーに滞在という手もあった。

 食事のあとセーフウェイで水とスナックを買って、僕達はバークレーを後にする。サンフランシスコ=オークランドベイブリッジを渡って、走ること40分程、ようやくゴールデン・ゲート・パークへ到着。車を下りると寒い。まだ明るいけれど、風は冷たくてビュービュー吹いている。Tシャツは2枚重ねでは足りない。3枚必要だった。前を歩くインド人一家に倣い、僕もナイロンジャケットのフードをすっぽりと被って、きゅっと紐を絞って風に応じる。
 それにしても広い公園だ。中の駐車状況がわからないので、手前に車を駐めてきたのだけど、園内にはいくらでも駐車スペースがあった。緑の豊かな公園の中を歩くのは悪くないが、カリフォルニア科学アカデミーに着くまでに結構な時間が掛かってしまい、着いたときには閉館していた。展示が見れなくても、かなりヘンテコなその建築が見れればいいかと思っていたら、閉館は情け容赦ない完全閉館で、脇に設けられたミュージアムショップ以外の場所には一切入れない。仕方がないので、僕達はミュージアムショップへ足を運んだ。

 ミュージアムショップでは、"The Big Book of Hacks"という本が平積みで売っていて、パラパラ捲ってみると、日常の様々な製品のハックが載っていて面白そうだった。けれど荷物になるので、アマゾンで注文。その後、サングラスを掛けたアインシュタインのTシャツを思わず買いそうになり、「旅行でテンションおかしいよ」とクミコに宥められる。

 このミュージアムショップには、一つだけ展示されているものがあった。
 それは「レモンドロップ」という名前の、鮮やかな黄色をしたアルビノのニシキヘビで、長さが4.4メートルある。どうやらカリフォルニア科学アカデミーはこの蛇をウリにしていて、グッズも販売しているのだが、僕は閉じ込められた生き物を見るのが嫌いなので、ガラス越しに窮屈そうな姿を見て嫌な気分になる。できればこのガラスを叩き割ってやりたいが、逮捕されるのは怖いのでそれもできない。

 ショップを出て道路を渡ると、噴水で鳥達が水浴びをしていた。シアトルでもポートランドででも見かけた、どこにでもいる黒くてスズメより一回りだけ大きな鳥だ。僕達が日本で見かける茶色いスズメみたいな存在だろうか。もっとも、この黒い鳥もスズメ目の鳥だろうな。なんせ鳥のうち半分以上はスズメ目の鳥なのだから。
 この鳥達は自由だ。
 それがいいとは限らない、という意見も分かる。この鳥達は自由だけど、自分でエサを探して敵を避けて生き延びなくてはならない。寒い夜には凍えて死んでしまうかもしれない。病気をしても、怪我をしても誰も治療してくれない。それこそ、さっきのレモンドロップみたいなヘビに丸呑みされてしまうかもしれない。
 レモンドロップは、科学アカデミーが細心の注意を払って飼育していることだろう。エサの心配は不要。外へ出ることができない代わりに、捕食者も外からやっては来ない。病気になれば治療が行われる。ヘビには別に「そこら中、自由にウロウロしたい」という欲求もないかもしれない。
 しかし、これは主観的な幸福とかそういう問題ではない気もした。生命を閉じ込めるという行為には、もっと根本的な問題があるような気がする。

 ところで、僕はかなり鳥が好きだ。
 小学生の時にスズメを飼っていたせいか、特にスズメっぽい鳥を見ているとそれだけで嬉しくなる。この噴水にもしばらくの間立ち止まって黒い鳥を見ていた。
 この後、僕達はデ・ヤング美術館を訪ねて、そのあと車まで歩いて戻ったのだけど、その道中にクミコがハチドリを見付けた。クミコはカナダにもアメリカにも住んでたことがあるので、別にハチドリなんて珍しくないのだろう。僕は生まれてはじめて見るハチドリだった。小学生のときにジャポニカ学習帳の表紙で見て、実物を見るまで30年近く掛かったというわけだ。やっぱり、僕はもっと急いで生きた方がいい。

 デ・ヤング美術館は、フランス人の友達が務めているらしい、今イケイケの建築事務所が手掛けたらしい。上の展望台が閉まってるからということで、こちらは無料で入れてくれた。展示は特に印象に残ったものがない。建築は、カッコイイと言えばいいけれど、そろそろこういうのも飽きてきたなという感じだった。

The Big Book of Hacks
Weldon Owen