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西海岸旅行記2014夏(13):6月8日:ポートランド、日本人街、中国人街、ハイテックはどこだ?

西海岸旅行記



 文句ばかり書いたようだが、それでもポートランドへ行ってみようと思ったのは、「再開発が成功したコンパクトでクリーンな都市」「今もっともクリエイティブな若者に人気の街」というフレーズから「もしかしたらハイテク都市なんじゃないか」と思ったからだった。
 ハイテクな人々と、前述した職人さん的な人々、オーガニックな人々、多様な人々が楽しく暮らしている街というのは魅力的だった。僕は個人的には職人さんの手作りグッズを好まないけれど、それは「そういうのものを好む人を好まない」ということではない。色々な人がいるほうがいい。
 ハイテクじゃないかと思ったのには別の理由もある。ポートランドにはインテルをはじめとした多くのテック企業があって、一応「シリコン・フォレスト」なる異名も付いている。
 豊かな(非常に豊かな)自然に囲まれたハイテク都市で多種多様な人々が自由に色々なものを作りながら暮らしているというイメージはとても心地良い。

 さて、ノースウェスト・ディストリクトで路面電車を下りた僕達は"GOORIN BROS"という帽子屋へ向かった。ソルティが帽子を買いたがったからで、彼女はその時着ていた薄手のコートとほとんど同じ色の帽子を買った。帽子屋を出て少し歩くと、歩道に人々が長い行列を作っていて、クミコが「あっ、ここSalt&Strawだ!」と言う。日本にいるときから来たがっていたアイスクリーム屋だけど、僕は何か食べるのに並ぶのは御免なので、「また後で来て、すいてたら買おう」とやり過ごす。

 公共交通機関が発達していて便利だと書いたにも関わらず、この日僕達はとことんポートランドを歩きまわった。「次どうしようか」と行き先が決まらないうちに兎に角歩いていたので、半分は無駄に歩きまわった。僕は特定の店だとか観光施設ではなく街自体がどんな雰囲気なのかを知りたかったので結果的には良かったと思う。
 ポートランドを歩きまわって感じたのは、「意外に活気がない」ということだった。あくまでたった3日間の表面的な印象でしかないけれど、人も少ないし、なんだか静かで退屈な街だと思った。これなら京都の方がよっぽどいいじゃないか。
 もちろん、これは僕が下調べしたり、あるいは街の人と積極的に交流したりしなかったせいだとも言える。だが、僕が知りたかったのは思いっきりざっくりとした街の温度だった。積極的にどこかの店や人々と交流を持てば、基本的には大抵の街は面白い。街だけではなく田舎でもどこでも。

 チャイナタウンへ移動して、小さな店を覗いた後、そろそろお茶でもしようとソルティがiPhoneを取り出してYelpを検索した。ここにしようと向かった一軒目の店は、行ってみると有料のチャイニーズガーデンの中にあったのでやめにする。
 ちなみにポートランドにはチャイニーズガーデンとジャパニーズガーデンがあり、ジャパニーズガーデンの方は日本国外にあるものの中で最高のできだと言われている。僕は日本の伝統的石工の仕事を手伝わせて頂いたことがあるので、なんとなくポートランドに行ったらこの日本庭園も訪ねてみようかと思っていたのだが、実際にポートランドへ行くと「なんで京都からポートランドへ来てわざわざ日本庭園なんて見なきゃならないんだ」という気分になり、結局は行かなかった。

 もしかしたら、ポートランドの日本庭園は本当に素晴らしいのかもしれない。
 ポートランドオレゴン州にあり、オレゴンには、明治から1900年代前半までの間に沢山の日本人が移住しているし、ポートランドにも日本人街があったという話だ。1900年代前半に日本人差別が酷くなり移民は禁止され、日本とアメリカが戦争をはじめると12万人の日本人(日系アメリカ人)は強制収容所に送られた。
 僕が行った時は閉まっていて入れなかったのだが、ポートランドには"Oregon Nikkei Legacy Center"というミュージアムがあり、そこでは上記の歴史が展示されている。日本とオレゴン州ポートランドは、そのように無関係ではなく、ポートランドにある日本庭園が素晴らしくても不思議はない。

 ただ、僕はポートランドを歩きまわってしばらくして、なんとなくこの街は偽物くさいなと思ったので、日本庭園もそういう表面だけのものではないかと勝手に推測してしまった。
 このチャイニーズガーデンも胡散臭く見えたし、チャイナタウンもどうしてか中国人がほとんどいなかった。大自然に囲まれたオーガニック愛好家の多い街のはずが、僕は大地という存在から遠く切り離された気がして、アスファルトをひっぺがしてやりたいような息苦しさを感じていた。このクリーンなイメージの表面の下には何があるんだ。そういうことを考えると、ポートランドに到着した夜、暗い通りのあちこちから声を掛けてきたゴロツキ達のことを思い出す。闇を響く彼らの声の方が、もっと生々しい大地から溢れる何かに近いような気がした。

 チャイニーズガーデンに入ってお茶することを諦めた僕達は、そのまま炎天下のサウス・ウエスト3番通りを下り"Stumptown"という店でコーヒーを飲んだ。僕はよく知らないけれど、東京にも店があるんだかないんだか有名なコーヒー店の本店らしい。やたらとガランとした店で、こんな内装でいいのかと思う。

 「そういえば、最近アマゾンのアプリがカメラで画像認識して商品みつけてくれるらしんだけど、日本ではまだで、アメリカでしかできないみたい」
 僕が気になっていたアマゾンアプリの新機能の話をすると、ソルティが早速アマゾンアプリを起動し、クミコが鞄から村上龍の本を取り出した。iPhoneのカメラが本の表紙を捉えると、アプリは的確にこの本が村上龍の「五分後の世界」であると認識した。

 ひとしきり休憩し、アイスコーヒーもなくなって、次はどこへ行こうかと話す。僕が「なんかハイテクな感じの物が見たい」と言うと、「それだったら、もう日本帰った方がいいんじゃない」とソルティは例の意地悪な笑みを浮かべた。

五分後の世界 (幻冬舎文庫)
村上 龍
幻冬舎