海賊船を探せ!

 銀杏並木を抜けて門の角を右へ折れると地下鉄の駅へ出る。長月も後半を迎えたというに、昼を下がった炎天の強さにはまだ差ほどの衰えも見出すことができない。そういえば昨日も蚊に足首を酷く食われた。夏というのはこのように終わらぬものなのか。ということをOに言うと、「しかしもう蝉は鳴かぬし、夜には秋の虫が鳴いているではないか、君」とやんわり片付けられた。それもそうである。

 最前まで漱石を読んでいたので作文が変かもしれない。私は長らく夏目漱石の読者ではなかった。高等学校のとき夏季休暇の課題に「こころ」を読書してその感想なり考察なりを示すように、というものがあったので、私は文庫で「こころ」を手に入れて、布団に転げて読んでみたのであるが一向に面白くなく、途中で放り出して寝てしまった。課題にはほとんど空想のいい加減なものを提出して凌いだ。

 以来、私は漱石の小説を避けて生活していた。時々思い立って、我輩は猫である、だのなんだのを広げてみては、すぐに閉じて歩き去った。

 但し、夏目漱石が押しも押されぬ日本文学の最高峰であることは疑いがない。私の尊敬する全ての人が漱石は良い、面白い、と言う。

 疲れました。
 これって僕の言葉じゃないですね。

 漱石は単に日本文学として優れているのではなくて、はっきりいってその外に飛び出している、日本文学、とくに明治文学の枠で語れるような代物ではない、ということを結構多くの批評家が言っていて、でも、僕は漱石が全然分からないので困っていました。僕には文学をいうものは分からないんだな、と。

 ちょっと話はそれますが、漱石は明治の人で、覚えやすいことに明治の年号と年齢が一致しています。明治27年には漱石は27歳だというように。

 閑話休題

 僕が最初に好きになった、文学者らしい文学者というのは太宰治です。それはものすごい影響を受けていると思う。だから、僕は文学というものを考えるときにどうしても太宰治を一つの指標にしてしまう。たとえば、作家や批評家を「太宰を好む人々」と「太宰を好まない人々」に分けてしまう。

 先日、吉本隆明さんと高橋源一郎さんの対談を読んだのですが、主題は「太宰治」で、吉本さんも高橋さんも太宰が好きだということが分かった。
 対して、村上春樹さんなんかは、僕は太宰は駄目なんです、というようなことを柴田元幸さんとの対談で言っている。

 僕は高橋源一郎さんも、村上春樹さんも両方とも好きなのですが、その両人は「太宰治」というラインを用いるのなら2つのサイドに割れてしまうわけです。
 この太宰治ラインというのは僕にとっては結構大きい。そういった意味では高橋さんと村上さんは、僕の中では結構な遠距離にいらっしゃることになる。

 ところが、高橋さんも村上さんも、やっぱり漱石は褒める。
 僕にとって重要な太宰治というインジケーターがはじき出すyesとnoの両方が夏目漱石はいい、という答えを出す。これはもう読まないわけにはいかないな、と思い、最近少しずつ漱石を読んでます。

 昔よりも少しは理解できるように思うけれど、まだ、引き込まれるポイントは発見できません。

 漱石は日本文学の王道とも言えるものですが、同じく映画の王道としてはスピルバーグを挙げることができます。

 僕は英語が得意ではないので、いい加減に「英語はしゃべれない」という状況を打破しようと思い、このところ毎日映画を見ています。
 なんとも都合のいい、いかにも怠け者らしい、本当に勉強になるのかどうかも怪しい方法(映画を見る口実ではないか、という意見もなくはない)ですが、とにかく見ています。

 何度も同じ映画を見たって仕方ないけれど、本来なら一つの映画をほとんど全台詞覚えてしまうまで見るほうが良いので、我慢して4回くらいは見ています。4日間毎日同じ映画を、しかも字幕なしで見るというのははっきりいってつまらない物です。僕は「グーニーズ」という映画が一番好きなのですが(これは僕の人格の30%を形成していると言っていい)、流石の「グーニーズ」も4回連続して見るともう見る気分が起こらない。

 今回、改めてグーニーズを見て思ったのですが、スピルバーグってやっぱり天才だと思う。特にオープニングの撮り方は、それはもうわくわくするしかない。

 僕だって本当は「好きな監督はトリュフォーです」とかゴダールだとか小津安二郎だとか言いたいけれど、でもやっぱりスピルバーグが好きです。それはもう断言するしかない。

 製作指揮をとった作品「back to the future」の一作目、ブラウン博士の研究室にマーティーがやってくるシーンはスケボーの使い方から何から、もう絶品だ。
 しかもスピルバーグは撮るのが早いし安い。
 制作費が安いというのは一つの能力指標にしてかまわないと僕は思う。

 しばらくスピルバーグばっかり見てやろうと思うのです。