大きな表紙と大きな箱。

 年末、本屋に行くと入り口でばったりVに会った。彼女に会うのはとても久しぶりで、僕達はお互いを認識するのに一瞬間を必要とした。久しぶりの挨拶を交わした後「何か本を買うのか?」と僕はちょっと訝しげに聞いた。彼女はイギリス人だし英語しか話せないのに、その本屋には洋書なんて売っていないからだ。彼女は日本人の友人にプレゼントしたい本があるということで、しかも驚いたことにそれは僕が昼間にインターネットで見つけてチェックした本そのものだった。それからもっと驚いたことに彼女はその本の英語のタイトルしか知らなくて、日本語訳のタイトルも出版社も何も知らなかった。偶然、その本の日本語タイトルも英語タイトルも知っている僕に会わなかったら、彼女が本を買うことは極めて困難だったと思う。

 実際、本棚にその本が見つからなくて、僕達は在庫があるのかどうか店員に尋ねたのだけど、「自分で聞けるか?」と言うと彼女は無理だと言い、彼女の欲しがっていた第一候補の本も第二候補の本も僕が在庫を尋ね、そして不運なことに両方とも在庫はなかった。
 時間はもう夜の八時半を過ぎていて、大抵の大きな本屋は閉まっているし、また明日にでも探しなよ、と僕が言うと、Vは「今夜友達が京都に来て、今夜発つから今本がいるのよ」と実に切迫したことを言い。僕達は四条のジュンク堂へ急いで行き、閉店間際ギリギリで本を手に入れた。

 彼女は本を届けに金閣寺の方まで行く必要があり、僕は友達とピザを食べる予定だった。四条から金閣寺まで女の子が自転車で行くなら30分は掛るし、その友人というのが何時にどこから立つのか知らないけれど、もう9時も過ぎているし、彼女がやり取りするメールの雰囲気からしてもVは相当に急いだ方がいいように見えた。だから最後、話の長い彼女にちょっと強くrunと言って、それが思ったより強い発音になってしまったので、もしかしたら傷つけたんじゃないかと長いブロンドの髪が落ちた背中を見送りながら後悔する。

 冷たい西からの風を背に受けて、僕は奇妙な気分がしていた。まるで昼間漫然とその本のことを調べていたことや、本屋へ足を向けたことが、Vの本探しを手伝うためだったように感じられた。それにほとんど何の用意もなしに、本屋へやって来たVはまるで最初から僕が助けに来ることを知っていたみたいだった。もちろん、彼女は僕が「その本なら昼にインターネットで見たよ」と言った時とても驚いていた。でも心のずっと奥の方では僕達は本当は何もかも知っていたのではないかというような気がした。

 そのあと、僕がピザにありついたのは11時前だった。ここしばらく僕はピザが食べたくてしかたなかったし、その特大のピザは実においしかった。大量のピザをビールで流し込んだ後、満腹で気持ち悪くなった胃袋を抱え、さっきまであんなに好きだったピザに呪いの言葉を吐きながら、考えてみればこっちの方は食べる前から心の中でちゃんと分かっていたなと思った。
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