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 糺の森を一陣の風が吹き抜けると、黄色くなりかけた広葉樹の葉が至る所から落ちてくる。それはまるで夏の終わりを告げる雨のようだ。まだ蒼い緑の木々を背景に黄色い無数の葉がくるくると落下し、所々差し込んだ真昼の太陽でそれらは黄金色にすら見えた。
 森を抜けて開けた空の下へ出ても、空気は涼しく、そろそろ南中を迎えた太陽光線も肌を焼きはしない。産卵期を迎えた名も知らない蝶が僕と同じ進行方向へしばらく進む。彼らにとっては秋こそが頂点の季節なのだろうな、と少しの感傷を捨て去ってふらふらした軌跡を目で追いかけてみる。

 今年は秋の訪れが寂しいとは思わない。ある人はそれは歳の所為だという。たぶんその通りなのだろう。あるいは季節というのはそんなに本質的なものではない、ということが分かってきたのかもしれない。あの人がいれば寂しくないし、あの人がいなければ寂しいという只それだけのことだ。そういうことを知っているから人々は極北の地でも乾いた大地にでも住み生きる。太陽の高さは生存可能な範囲であればそれでいい。僕は文句も言わず長袖を着て、マフラーを着けようと思う。

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 Oが国に帰るのではなくドイツに行くという。一昔前はアメリカを目指す研究者が多かったけれど、最近はヨーロッパの重要性がより高まっているらしい。そういえば僕の日本人の友達ではこの秋からの人も含めると5人が海外にいるけれど全員行き先はヨーロッパだ。
 僕は海外に行きたいという希望がそんなにないけれど、あっけらかんと未だにアメリカが面白そうだなと思う。かっこつけてオーストリアとか言いたいところだけど。