遠いような近いような街並みにさっと夕立は過ぎて夕方の空。

 結膜炎にかかったという理由で誘いを断ると、大抵みんな納得がいかないようだった。「ただ目が赤いだけでしょ、べつに」という感じで。ところが事はそう軽くもなくて、熱も出て2日間寝込んでいました。風邪で有名なアデノウィルスが結膜に取り付いたわけで、基本的には風邪と同じようなものです。咽頭結膜炎は通称プール熱と平和的な名前の割りになかなか辛かったです。それに感染力が強いので気楽に人に会うわけにも行きません。一応はかかると医師がOKを出すまで学校も仕事も休まなくてはならないことになっている病気だし、学校くらいなら兎に角、働いている友人にはうつすわけにいかない。

 僕は「病気になってダウンしているときに部屋の中にある物だけでなんとかやりくりする」というのが結構好きなので(もちろんしなくていいならその方がいいわけですが)、今回も極限まで資源を使いました。冷蔵庫の中身と砂糖とクミンと醤油を使いきり、洗濯物が溜まってタオルがなくなりTシャツで体を拭いたり、スプーンも全部使ってしまってプラスチックのを使ったり。ちょうど「病気だし仕方ない」と自分を甘やかしてコンビニでアイスクリームだとかジュースを大量に買い込むのと同じ感覚です。別にコンビニへも行けるし洗濯もできるし、買い物を申し出てくれる人も居るけれど、でも重症じゃないときは好き好んでそういうことをしてしまう。

 もう熱が出るだとか頭痛がするといった風邪的な症状はほとんど治まったのですが、目がまだ赤いのでコンタクトを入れることができません。そして、このコンタクトを入れることができないというのがもしかすると最大の難点かもしれない。
 どうしてかというと、コンタクトをしないと「そこに居る」気分にならないからです。多くのコンタクトレンズユーザーが「コンタクトを入れないと、メガネでは目が覚めない」と感じているのではないかと思うけれど、僕の場合もコンタクトを入れるまで一日が始まらない。メガネレンズの向こうで広がっている世界は、たしかに見えてはいるけれどやっぱりガラスの向こう側で、視界も狭いし歪んでいて、観賞の対象にはなりうるけれど自分がそこで生きる現実世界そのものにはならない。今日で1週間ほどコンタクト無しのメガネ生活をしていることになるのですが、未だに全くメガネの視界には慣れません。そんなわけないのに外した方がまだ現実感があるんじゃないかと外してみて、それで今度は全くのぼんやりした視界にうんざりしてまたメガネを掛けるという次第です。だからどこへ行っても全く面白くなんてないわけです。厳密には僕はそこに居ないわけですから。
 でも、来週からは元の生活ができると思います。せっかくの8月だけど、もうしばらくは大人しくしていることにしようと思う。