eat.

 友達が、部屋のブレーカーを落として海外旅行へ出かけて、間の抜けたことに冷蔵庫の中に食べ物が入ったままだったので帰って開けてみるとそれはもう阿鼻叫喚の地獄と化していた、という話をして、続けてこう言った。

「でも、不思議なことに冷蔵庫の中にはハエもいてさ、とても締め切った冷蔵庫にハエが侵入できたとは思えないんだけれど、そうだとしたら冷蔵庫の中の食べ物にハエの卵がついていたってことだし、だとしたら私たちって日常的にハエの卵を食べているということになるんじゃないの?」

 それはぞっとするアイデアだけど、確かに的を得た意見ではある。
 虫の卵ってどこにあるんだろう。
 食べ物を放置して冷蔵庫内にハエが湧いたという話は、少なくとも僕はあまり聞いたことがないので、この場合はパッキングの隙間やなんかから小さなハエが侵入したのではないかと思う。

 だけど、昔読んだ何かの本では、宇宙空間で野菜を栽培する方法を開発するため、外部とは完全に隔離された実験室みたいなところで野菜を育てようとすると、何故かどこからか虫が発生して困る、ということが書いてあった。土や種に虫の卵があるのだ。将来人類が宇宙ステーションなんかで食べ物も作って長期滞在するようになったとき、人々は無機質な空間を想像すると思うけれど、実はそこには虫との戦いが待ち受けている可能性が大きいんですよ、とその研究所の人は言っていた。

 僕自身、虫は得意じゃないし、多くの人が虫を嫌う。だけど虫と僕達の生活は切っても切れないものだ。それに特に僕達日本人はたぶん結構多くの虫を日常的に食べている。なぜなら大抵の魚介類には寄生虫がいて、数種類を除いては食べても害はないし、大体加熱すると死んでしまうものばかりなのでみんなあまり気にしないで食べているからです。なんというか、海の生き物というのは僕達が普段ぼんやりと思っているよりも多様です。海というと魚や貝を連想するけれど、本当はもっと沢山の小さな虫たちだって暮らしている。

 そういう魚の中で暮らしているような虫達のことは、できれば知らずにいたいような気もするけれど、やっぱり僕達はそういうことも踏まえたうえで物を食べるというのは一体どういうことなのかを考えても良いのではないかと思います。
 小鳥のような小さくてかわいらしい生き物が、結構グロテスクな虫を淡々と啄ばんでいたりするのを見ると、僕は食べるという行為がこの生物界で一体どういうことなのかを考えざるを得ません。普段僕達がイメージする食事というものには、たぶんかなり複雑なフィルターがかけられているのではないかと思います。