kibune1.

 そういえばこのところ豆塚の話を書いていませんが、しばらく忘れていました。
 だけど、その過程ではじめて読んだ「貴船の物語」は頭から離れません。表現が大袈裟でとてもきれいだと思います。僕だけかもしれませんが、マルケスの「100年の孤独」を思い出します。
 以前にも書いたように、僕が読んだのは貴船神社の高井和大さんという方の現代語訳で、これは貴船神社のサイト http://www.kibune.or.jp/jinja/monogatari/index.html
で全文を読むことができます。
 少しだけ、ここに書かれたものを現代小説風にリライトしてみようとしたのですが、完全な現代の日本語を使うと雰囲気が出せなくてうまく行きそうにありません。

 今日は物語の導入部を引用しながら紹介したいと思います。

 主人公は定平の中将という比較的身分の高い人です。彼はいい年になっても結婚しないので、父親に「早く結婚しなさい」と煩く言われて、父親は都中から女の人を連れてきますが中将は全て断ります。
 そんなある日、中将は扇比べの時に見た扇に描かれた女性に恋をします。

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 中将は、その扇を開いて御覧になると、

「これはどうしたことだ」
目をみはらんばかりに驚かれた。その絵の何と美しいこと。この世にもこれほど美しい女房がいるのだろうか、いや、いたからこそ絵師も見て描いたに違いない、今まで見た女房の中にこれほど美しい人を見たことはない、このような人とせめて一夜だけでも枕を並べてみたいものと、絵の女房にすっかり心をとらわれてしまわれた。
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 なんともストレートな表現ですが、こうして中将は恋の虜になります。
 僕はこの後もいくらか漫才のツッコミのようなことを書くかもしれませんが、それは全て賛辞です。ここ数年で読んだ物語の中で、僕にとってこの貴船の物語はベスト3に入るものであり、賞賛なら一向に惜しみません。

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 お屋敷に帰られてからは口もきかず、思いは日毎つのるばかり。「逢うよりほかの薬なし」と、胸は打ち騒ぎ、あれやこれやと思い悩まれ、とうとう恋の病にふせられて、御所への出仕も止めてしまわれた。
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 絵を見ただけでその人に恋をして寝込み、仕事まで休むとは相当なものです。
 ちゃかすどころか、周囲の人々は心配して、祈祷や何かを色々としてくれます。でも、そんなのは恋の病を全然癒さない。挙句の果てに「命も長くない」と言われる。

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 修験者、識者等は、御命もそう長くはないだろうという始末だった。
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 そしてその女性を描いた絵師が呼ばれて事情を聞くに、それは鬼の娘だ、ということが分かる。

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 これをお聞きになった中将殿は、「いないというなら別のこと、いると聞いたからにはたとえ鬼の娘であろうとも、逢わずにおかれるものか」とお思いになった。せめて夢でも見てみようかと、まどろんではみたが、夢を御覧になることもない。神仏に祈請すれば逢うことができるかもしれないと、まず氏神の春日大明神に十七日お籠りになり、さらに長谷の観音に参られて十七日お籠(こも)りされた。すると、観音の霊夢があって、

「これより帰って鞍馬の毘沙門にお頼みなさい」
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 そして、彼は鬼の娘に会いに行く。
 僕はこの辺りの、「せめて夢でも見てみようかと」思ったりする感覚に果てしない何かを感じる。それが何かはうまく説明できないけれど、でも、この世界は本当に美しいもので織られているのだという気分になる。



2007年6月18日月曜日
 昼に大学の構内清掃が予定されていたけれど雨で延期。
 夕方にスケートボードを直そうと思い立ちコーナンへ行くと偶然Nに会う。規格が違って欲しいナットが売ってないけれど、違うのを無理矢理使うことにする。普段気にも留めないのに何故か無性にバキュームリフターが欲しくなって思わず買いそうになる。
 夜にスケボーをきれいにして久しぶりに乗ってみる。高校生以来でなんだか怖いし、煩くて近所迷惑なのですぐにやめる。 本でも読んで寝ようとしていると、Eから電話で、訳あって怖くて家へ帰れなくなったので助けて欲しいということなので助けに行く。

 ときどき、何かの弾みで話題が時事問題になって、それで誰かがきっぱりと政治を批判することがある。そんなとき、僕はちょっとどうしていいのか分からない。どうしてかというと、政治家に対する批判には「政治家はバカである」という根拠薄弱な前提がよく含まれているからだ。

 僕は基本的には政治家と言うのは自分よりもはるかに政治的なことに関しては頭がいいだろうと思っているし、当然批判なんてできない。もちろんスキャンダルには誰だって常識的な判断を下せるけれど、その政治家の政治的判断に関する妥当な意見というものを僕は持ち合わせていない。

 テレビの政治家が出てきて討論する番組に、ゲストで普通の主婦がでてきて鳩山さんに「民主党が何を言いたいのか、そんなの国民には全然伝わっていませんよ。もっと分かり易く説明しないと、全然、意味わかんないです」と言っていたけれど、たぶんそのおばさんの頭が悪いだけだろうと思う。失礼ながら。

「もっと分かり易く説明して」「分からせて」と声を大にして言う人間を僕は信用しない。それは説明が悪い、良い以前に態度の問題だ。本当にそのことを理解したいと思う人間はそんな言い方をしない。