遠い昔に渡ったことのある橋。

 雨の上がった土曜日の夜、僕はBと百万遍にあるミックというバーへ行った。「どうにも怪しい店らしいから」という理由で行くと、即ち、とても怪しくて素敵な内装の店だった。食べ物に難があるけれど、内装は適当で本当に素晴らしいし、お酒を飲んでだらだらと話をするにはとてもいいお店だと思う。
 その日は、人民帽みたいなのを被ったおじいさんが一人で切り盛りしていて、僕らが店を訪れたときは既に12時を回っていたので、まさかすぐに閉店になるんじゃないだろうかと思ったけれど、「ミックは朝5時までになりました」と壁に適当な張り紙がしてあったので一安心する。
 お店の中ではずっとローリングストーンズが流れていた。

 僕たちが店を出るとき、大学生の集団みたいなのが十人以上入ってきて、あのおじいさん一人でこの人数を捌けるのだろうかと心配した。僕とBのカクテルが出てくるまでにも結構な時間が掛かっていた。
 でも、まあ彼はプロなのだ。

 店の外の木に、脱皮を終えたばかりのセミが止まっていて、「私酔っ払った」と言いながらBが傘でセミを突ついた。

 「やめなよ。彼は今脱皮を終えたばかりで一番ナイーブな時期なんだ」

 東大路にはパトカーが止まっていて、自転車を止めて税金の無駄使いか何かをしていた。

 コンビニエンスストアで、食べ物と飲み物を買う。
 僕がプリンとドーナツとお酒を持ってレジに行くと、「えっ、すごい。私、昨日そのプリン買おうかどうかすごい悩んで、今日そのドーナツ食べたわよ」とBが言った。僕たちは甘い食べ物に関する好みと、それから音楽の好みを共有することができる。でも、映画に関する好みはほとんど正反対で、それから好きな場所に関する好みも大体は反対だった。彼女は寂しい北国を好み、僕はカリフォルニアを好む。

 「それにしても、雨上がって良かったね。夕方までは結構降ってたし」

 今年の梅雨は、意外と早く明けるような気がした。