ポルシェ。

 幸い、うまいタイミングで雨からは逃れた。

 「雨降りそうだし、それにまだ花なんて咲いてないよ」

 というと、彼女は「でも、つぼみはある」と切り返してきて、もともと花自体は僕だってどうでもいいので「それもそうだね」と賛同して、そして誘われるままに花見に出掛けた。

 朝にシャワーを浴びようとすると、電気式のシャワーのスイッチが切れていて、僕は随分と遅れてみんなに合流したのだが、円山公園に着くと人種も国籍も混合で15人くらいの集団になっていたのでびっくりした。確実に来ると聞いていたのはたったの3人だったし、多くてもせいぜい6,7人くらいのものだと思っていた。

 そのせいで今日は日本語と英語とドイツ語とスペイン語が混合だった。
 むろん僕は英語も苦手だし、ドイツ語に至っては数も数える事ができないし、スペイン語だってほとんど知らないので色々ともどかしかった(実はスペイン語は昔スペインに旅行を計画していたときに少しだけ勉強した)。
 やっぱり英語くらいはきちんとした力を付けないといけないな、と思った。

 花見から帰って、夜中に友達に手伝ってもらって椅子を仕上げた。
 ずっと前から気になっていたボロ椅子(中からなんとワラが飛び出している)が、廃棄処分と書いて廊下に置いてあったので、それを貰ってリメイクしました。
 僕はワラがクッションの為に入っている椅子なんて初めてで、たぶん、これはもともと相当に古い椅子なのではないかと思う。もちろん、ワラは全部取り除いたのですが、椅子4脚でゴミ袋3枚が一杯になるくらい沢山のワラが入っていた。

 ワラを出していると、中から古めかしい模様の布が出て来て、なんとなくとっておこうかと思ったけれどやっぱり汚いので捨てた。

 そうして、椅子を一度骨格だけに戻した後、本当はもっと珍しい布を使いたかったのですが、予算の都合でノムラテーラーで買ってきた花柄のファブリックを張った。本当にお金がなかったのでウレタンやスポンジも買わないで、仮装のときにたくさん貰ってきた布を中に詰めた。この貰ってきた布というのは本当に大量にあって、邪魔なのでもうゴミ袋に入れてベランダに置いていたのですが、捨てずにとっておいて良かった。

 新しい研究室があまりに殺風景で困っていたのですが、この椅子のお陰ですこしはくつろげる空間になったと思います。この椅子は一昔前の典型的な低めの日本製ソファーで、次はどこかからローテーブルを調達しなくちゃな、と思う。

 実は、今回この椅子を手に入れたのは偶然によるところが大きいです。
 この椅子というのは、普段僕が訪れる事のない部屋に以前たまたま入ったときに目にしたもので、それが先日廊下に出されていたのですが、僕はその廊下をまず普通は通ることがないのです。でも、その日は特別な(本当にスペシャルな)用件があってその廊下を通って、そうするとそこには椅子があったのです。
 なんでも、願いを持ってみるものだと思う。
 もしかすると時間はかかるかもしれないですが、願ったことは結構な割合で叶うのではないかと、最近僕はよく思います。