西海岸旅行記2014夏(08):6月6日:いったんさらばシアトル


 ウォーター・フロント・パークを後にした僕達はノッキー夫妻に案内してもらい、夜のシアトルを散歩することにした。海からビル群を抜けて坂を上がって行く。神戸みたいな街だと思う。実際に僕はまだ自分がアメリカにいるのだと、はっきりは感じていなかった。本当に神戸かどこか日本のあまり行かない街にいるような気がしていた。
 この「日本の知らない街にいるような気分」というのは、旅のかなりの期間感じていたものだ。もう先進国はどこへ行っても同じかもしれないなと思う。

 街の規模も別に日本とそんなに変わらない。なんとなくアメリカの都市は日本の都市よりも巨大なんじゃないかという先入観があったけれど、都市の規模と国土の規模は単純に比例しないのは考えてみれば当然だ。都市の規模はどちらかというと経済規模とヒューマンスケールで決定される。東京とか大阪は世界最大規模の都市で、それらを知っていれば特にどこの国の都市を見ても驚くことはないのかもしれない。なんだかんだ日本は先進国で、なんだかんだ僕はそこの住人なのだ。

 パイク・ストリートを上り、途中で1つ北のパイン・ストリートへ移る。流石に日没は過ぎ、夜らしい暗さが街を優しく包み始める。坂を登るにつれて建築物の規模が段々と小さくなり、飲食店が目立つようになってくる。どこの店もセンスがいいし、人が溢れていて賑やかだ。パラマウント・シアターの外に長い列ができている。海岸部から、観光地、高層都市、文化的郊外という大雑把なグラデーションを感じる。そして、あちこちの店先に掲げられるはレインボー・フラッグだ。

「ちょうど今ゲイ・プライドのイベント色々して盛り上がってるから、うちの近所のクラブみたいなところも夜うるさくて寝れない」とノッキーが言い、「ちょっとその膝上の短パンはヤバいかも」とシュウイチ君が言った。
 僕は思想としては「自由なセックス」なので、勘違いされても別に構わない、というか肌が白くて細いせいか元々良く勘違いされる。クミコも最初は僕のことをゲイだと思っていたらしい。クミコとはじめて会ったのは京都のクラブで、その時僕はフィンランド人の男友達と一緒だったのだけど、その友達と僕がゲイのカップルだと思っていたという話だ。

 ノッキー夫妻と別れた後、コンビニで水を買ってグリーン・トータス・ホステルへ戻り眠る。

 朝7時頃、トイレに行きたくて目が覚める。フロアに4つあるバスルームはあいにく全部使用中で、旅行者の朝は早いのだなと思う。トイレを済ませた後、もう一度眠り、起きると10時だった。シャワーを浴びて身支度を整え、11時にチェック・アウト。疲れた旅行者達がアンニュイな空気を作り上げるダイニングで、そのままになっていたノキアのセットアップを済ませて、一日の予定を立てる。つまり、この場にいる旅行者の8割と同じように僕達もラップトップに向かう。

 この日は夕方5時半にキング・ストリート駅を出る長距離列車AMTRAKで次の目的地ポートランドまで移動するので、それほど時間があるわけではなかった。それから、前回の記事に書いた時差ボケがこの日の昼下がりピークに達して観光する集中力もほとんどなかった。さらに、シアトルにはもう一度戻ってくる予定だ。
 なので、この日のことは手短にまとめたいと思う。

 ホステルを出た僕達はまずスペース・ニードル目指して歩いた。途中でスタバ1号店があったので一応写真だけ撮る。スターバックスはシアトルの本当に至る所にある。スペース・ニードルは登るのに随分な列ができていたので、見た目にも低いし見るだけで済ませる。そのままフランク・ゲーリー設計のEMPミュージアム、ビル&メリンダ・ゲイツ財団をさっと見る。ビル・ゲイツの活動はそれはそれでいいと思うけれど、途上国の問題は先進国というか、戦勝国のデザインした経済システムに拠るところが大きいと思うので、それをプロダクトでなんとかというのには違和感がある。ただの新しい市場じゃないか。
 僕は時差ボケで胃が気持ち悪かったので、この日は夕方まで何も食べれなかったのだけど、クミコが空腹だったのでシアトル・センターARMORYの中でフィリピン・フェスティバルを眺めながらご飯にする。僕はオレンジジュースのみ。
 帰りは、こちらも大阪と同じ万博の名残、今は一駅しかないモノレールで街中へ戻る。モノレールを下りたビルにはダイソーが入っていて思わず入る。街中では結構保守的なシアトルの建築の中で飛び抜けて有名な先進建築、シアトル中央図書館を見る。

 キング・ストリート駅についたのは4時半くらいで、ちょっと早すぎたけれど周囲には特に何もないので待合室にずっといる。駅にある唯一の自動販売機が故障していて水を買えないので、駅員に他に水を買えるところがないかと聞くと「ない」とのこと。日本のコンビニと自動販売機は異常だがちょっと恋しい。水は電車の中でやっと買えた。
 近くに座った良く喋るビジネス専攻修士過程の女の子の自慢気な話をBGMにして4時間弱の電車の旅が始まった。電車が動き始めると、僕達の隣の席では太った東洋人のおばさんがでかいラップトップをガチャガチャしながら誰かと電話で話し、電話が済むとナッツが入ったこれも巨大なタッパーを取り出してムシャムシャとかじり始めた。

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