西海岸旅行記2014夏(06):6月6日:シアトル;ターゲットでGoPhone


 グリーン・トータス・ホステルは、シアトル観光を考える上でかなりの好立地ではないかと思う。パイク・ストリート、ファースト・アベニューに建つホステルの目の前はパイク・プレイス・マーケットという活気溢れる市場で、まあなんというかスターバックスの一号店などもここにある。別に市場で何か買いたいというようなことが無くても、海と都市の間の賑やかな市場というのは気持ちのいいものだと思う。

 ホステルの入り口は少し分かり難く、入ると塗りたてのペンキの匂いがした。受付にいた2人が忙しいのかただ気が向かないだけなのか、僕達を無視して取りあわない。そういうものだと思っていたので特に腹も立たず、「すみません」としつこく言っていると、奥からタトゥーとかピアスとかがしっかり目の男が出てきて、こちらは親切に対応してくれた。奥の部屋に目をやると、スターバックスのでかいプラスチックカップがある。受付のカウンターにも2つ。つまり1人1つ。ハロー、シアトル。

 さて、チェックインを済ませた僕達が最初にしなくてはならないことは、携帯を手に入れることだった。
 僕もクミコも日本からiPhoneを持ってきているが、それらはSIMロックが掛かっているのでこっちのLTEは使えない。デザリングの出来るスマートフォンかモバイWi-Fiと、それに挿して使えるプリペイドSIMカードをこっちで買って、それにiPhoneWi-Fiで繋いで使うつもりだった。
 ホステルの周りにある電気屋RadioShack、電話会社AT&T、それからアメリカの西友みたいな量販店targetを周り、結果的にはtargetでNokiaスマートフォンLumia520とAT&TプリペイドSIMカードを買った。AT&Tプリペイド携帯はGoPhoneというブランド名で展開しているようで、スマートフォンにもSIMカードにもGoPhoneのロゴが付いている。Lumia520はWindowOSのスマートフォンで65ドル。SIMカードは60ドルで通話とSMS無制限、LTEで2.5ギガまでのデータが使える。旅行中にネットが繋がらないのは考えられないし、これくらいの値段なら十分にリーズナブルだ。
 人ごとであるうちは誰も彼も口を揃えて「アメリカはどこでもWi-Fi飛んでるから大丈夫だよ」というけれど、そんなわけないのを僕は知っていた(実際にそんなことなかった)。なによりiPhoneのグーグルマップをカーナビの代わりに使う予定だったし、ど田舎の延々と同じ風景が広がるような荒涼地でもWi-Fiが繋がると考えるほどお目出度くもない。LTEですら怪しいものだ。

 レジを打ってくれた店員はルー大柴ちょいワルオヤジになったような、どことなく危なっかしいおじさんだった。
「どこから来たんだ?」
 と彼はバーコードをスキャンしながら聞き、僕は日本だと答えた。
「おお、日本か。日本、いいね。東京に1回行ってみたいんだよね。だってほら、東京は東京だから、ハッハッハ。タトゥーも、日本のあれ何だっけ?日本のあれみたいなタトゥー入れたいんだよね」
「ヤクザのこと? 日本のマフィア」
「そうそう、ヤクザ、ヤクザ。ヤクザみたいなタトゥー入れたいんだ」
 まあこの人が東京へ行ってヤクザみたいな刺青を入れたいと言っても、全然驚かないしどこかものすごく納得がいくなと思いながら、僕がクレジットカードのサインを書いていると、クミコが「電話のセットアップまでやってもらえますか」とちょいワルのルー大柴に言った。
「もちろんだよ」

 が、ことはそう簡単には行かない。
 まず、ちょいワルのルー大柴はGoPhoneのパッケージを開けることができなかった。手では開けられないとなると、今度はハサミを使って開けようとするのだが、少し肉厚なのか、透明のプラスチックでできたパッケージは全然切れない。パッケージなんてどうでもいいといえばどうでもいいわけだけど、これは一応僕達が買った商品であり、それなりの丁寧さがあっても良さそうなものだ。しかし彼はなりふり構わずハサミでパッケージに襲いかかる。
 そのハサミを持つ手つきで、僕はもうルー大柴さんに任せるのはやめようと判断すべきだったのかもしれない。とはいっても彼はここのGoPhoneの係だし、パッケージが開いてしまえばさっとセットアップしてくれるだろう。
 僕はポケットからレザーマンを取り出し、ナイフブレードを開いて彼に渡した。
「ハサミじゃ無理そうだから、これ使って下さい」
「えっ!あっ、ありがとう。これ開けるの大変なんだよね、ハッハッハ」

 ナイフを持ったちょいワルのルー大柴は、ハサミの時とは比べ物にならないくらいに危なっかしい。突き刺そうとしたナイフが何度も何度もパッケージの表面を滑る。そういえば、このナイフにはロックが付いていないけれど、ルー大柴はそういうの分かってるだろうか。手どころか勢い余って自分のお腹とか、近くを通った客を切り付けてしまって大変な惨事にならないだろうか。どうして僕達はこんな危ない橋を渡っているんだ。
「もうやっぱり自分でやるので大丈夫です」と言おうとした頃、ナイフは無事にパッケージに突き刺さり、力任せでそれはやっと開いた。
「あとはもう簡単。これってこの固いパッケージ開けるのが一番難しいところだから、ハッハッハ」

 もう予想はついていたが、その後も簡単には終わらなかった。手際が良さそうだったのはSIMカードの挿入だけだ。もしかしたらルー大柴のせいではなくて、他に原因があったのかもしれない。どちらにしてもセットアップはなかなか終わらず、当のルーもややイライラして見えた。店の中がすこし混んできたのもあって、僕は「忙しいと思うから、あとはもう自分でできると思うし大丈夫です、ありがとう」とNokiaを返してもらった。
「そうか、うん、あとはもう簡単だから、じゃあな」

 時計はそろそろ6時前を指していた。僕達は6時にノッキー夫妻とホステルの前で待ち合わせている。

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