ヒートテックの過剰広告性について

 毎年、寒くなって来るとユニクロの「ヒートテック」の名前を耳にします。文脈としては「ヒートテック着れば大丈夫」「ヒートテック着てないから寒い」という感じで、基本的にヒートテックを信頼する感じで耳にします。

 それで、毎年イライラしています。
 最初に書いておきますが、ヒートテックを着ると温かいのは確かだと思います。それは否定しません。もしかしたら、本当に、より空気をたくさん含む保温性の高い繊維が使われているのかもしれませんが、たとえそうでなくてもある程度の厚みがある下着を一枚余計に着れば温かいのは当然のことです。

 ただ、「発熱」というのが看過できない。
 ヒートテックには「ヒートテックの8つの機能」という表示がなされていますが、その一番最初は「発熱」です。
 こう書かれています。

 『発熱:体から蒸発する水蒸気を繊維自体が吸収し、熱エネルギーに変換。素材自体が暖かくなります』

 これをなんとなく「おー、すごい!水蒸気が熱に!さすが最新技術!」みたいに、ヒートテックのテックという音がテクノロジーっぽいからか、「新技術」的に解釈されている方が少なくないように思います。
 もちろん、ユニクロの戦略はそのように組まれているはずです。拡大解釈の誤解を招くことが前提だと思います。

 こんなものは最新技術でもなんでもありません。
 この程度のことを「発熱」というのであれば、普通の服も全く同じ原理で「発熱」しています。昔ながらのお父さんのパッチも発熱しています。古着屋で買ったTシャツも発熱しています。鍋のフタも発熱しています。鍋で書き換えましょう。

『発熱:煮物から蒸発する水蒸気をフタ自体に吸着させ、熱エネルギーに変換。フタ自体が暖かくなります』

 わお、画期的な鍋のフタですね!

 鍋のフタが熱くなるのと、ヒートテックの「発熱」は同じです。けして「水分に反応して熱を生み出すハイテク繊維」ではないです。
 ヒートテックは、水蒸気を吸い取ってるだけです。気体である水蒸気が液体である水に変わるとき、ちょうど気化熱の逆で熱が出ます。その代わり、濡れます。濡れたものが乾く時は、また気化熱を奪うのでその分温度は下がります。
 ヒートテックでは、水蒸気から水の行程を内側で行い熱を回収し、水を外部に運んでから外部で蒸発させる、内部と外部の間は断熱されているので中は暖かく外は冷たくなる、というのが好意的な解釈かと思いますが、あの薄い繊維で本当にそんなことができるのでしょうか。

 この記事は、昨日読んだ『山岳ガイドが冬にヒートテックを使わない理由( http://rbs.ta36.com/?p=16205 )』というのを受けて書いていますが、僕も湿っぽいヒートテックで不快な思いをしたことが何度もあります。
 ここまで批判的なくせに、どうしてヒートテックを着ているのかというと、これが一番簡単に手に入る肌着だったからで、怠惰の結果以外の何でもないです。こういう肌着を普及させたことの、ユニクロの功績は大きいなと素直に思います。
 ただ、今年は「化学繊維の抗菌剤まで入った肌に密着するもの」を、安くて簡単に手に入るからと着続けるのかどうか考え直しました。