連載小説「グッド・バイ(完結編)」23

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・迷走(四) キヌ子のアパートまで一目散と行きたいところだが、田島が人通りのある往来を走れるわけない。あははは、あの人は、あんなに急いで、何か…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」22

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・迷走(三) ないわけない。田島は浮ついたまま金庫を探した。いやいや、よく見ればその辺に転がっていて、なあに見逃しているだけさ。自分に言い聞か…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」21

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・迷走(二) 田島は「オベリスク」の仕事にここ数日精を出している。闇屋からはもう足を洗う。そう決めた。お金はもう十分。闇はもうたくさん。これか…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」20

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・迷走(一) 参宮橋から代々木方面へ、通りを男が歩いている。早い春の夕方、風も冷たく通りを歩く人達の外套もまだ見目重い。黒に焦げ茶色に、カーキ…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」19

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・ 誘惑(四) 「あのですね、えっと、君ね、人間には心がないと言うんですか。」 田島はややギクシャクとして聞いた。キヌ子と話なんてしても、これは…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」18

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・誘惑(三) イヒヒヒ、これはお金も掛からないし、上玉。と田島は思い、その後、戸崎さんと進んで懇意になった。戸崎さんは、田島が文士先生連中から…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」17

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・誘惑(二) 耐えた。よし。快勝。バンザイ。田島は、涼しい美人の酒場を、無事あとにした。これが、真人間の生き方だ。妻も、子も、父がこんな精神の…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」16

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・誘惑(一) 作戦が、良くなかった。初老文士の冗談を、意外に名案なんて藁に縋ったのが悪かった。馬鹿。涙は、もうたくさん。サヨナラは、もうたくさ…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」15

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・コールド・ウォー (四) 「お見舞いに持っていった饅頭を、あなたが食べて、意地汚いケチね、いつも。」 帰りに入った蕎麦屋で、キヌ子が鴉声を出し…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」14

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・コールド・ウォー (三) ケイ子の兄は、予想以上の大男であった。これでは、いざという場合に、キヌ子の怪力も通用しないのではないか。田島は不安…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」13

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・コールド・ウォー (二) こうなったら、とにかく、キヌ子を最大限に利用し活用し、一日五千円を与える他は、パン一かけら、水一ぱいも饗応せず、思…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」12

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・コールド・ウォー (一) 田島は、しかし、永井キヌ子に投じた資本が、惜しくてならぬ。こんな、割の合わぬ商売をした事が無い。何とかして、彼女を…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」11

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・怪力 (四) 「ピアノが聞えるね。」 彼は、いよいよキザになる。眼を細めて、遠くのラジオに耳を傾ける。 「あなたにも音楽がわかるの? 音痴みたい…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」10

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・怪力 (三) 田島は、ウイスキイを大きいコップで、ぐい、ぐい、と二挙動で飲みほす。きょうこそは、何とかしてキヌ子におごらせてやろうという下心…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」9

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・怪力 (二) 「あそびに来たのだけどね、」と田島は、むしろ恐怖におそわれ、キヌ子同様の鴉声になり、「でも、また出直して来てもいいんだよ。」 「…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」8

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・怪力 (一) しかし、田島だって、もともとただものでは無いのである。闇商売の手伝いをして、一挙に数十万は楽にもうけるという、いわば目から鼻に…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」7

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・行進 (五) セットの終ったころ、田島は、そっとまた美容室にはいって来て、一すんくらいの厚さの紙幣のたばを、美容師の白い上衣のポケットに滑り…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」6

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・行進 (四) キヌ子のアパートは、世田谷方面にあって、朝はれいの、かつぎの商売に出るので、午後二時以後なら、たいていひまだという。田島は、そ…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」5

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・行進 (三) 田島は敵の意外の鋭鋒にたじろぎながらも、 「そうさ、全くなってやしないから、君にこうして頼むんだ。往生しているんだよ。」 「何も…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」4

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 第13回目までは太宰治が書いたものです。 ・行進 (二) 馬子にも衣裳というが、ことに女は、その装い一つで、何が何やらわけのわからぬくらいに変る。元来、化け物なのかも知れない。しかし、…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」3

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 ・行進 (一) 田島は、やってみる気になった。しかし、ここにも難関がある。 すごい美人。醜くてすごい女なら、電車の停留場の一区間を歩く度毎に、三十人くらいは発見できるが、すごいほど美し…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」2

(注)この連載についての説明は第一回目の冒頭にあります。 ・変心 (二) 田島は、泣きべその顔になる。思えば、思うほど、自分ひとりの力では、到底、処理の仕様が無い。金ですむ事なら、わけないけれども、女たちが、それだけで引下るようにも思えない。…

連載小説「グッド・バイ(完結編)」1

前回の投稿に「fridge」という短編小説を載せ、それは太宰治「令嬢アユ」へのオマージュみたいなものでもあると書きました。そして「こういういかにもな文体で何かを書くことはもうないと思う」と書きました。 「fridge」を書いたのは15年以上前のことで、…

カロリーメイトのこと

はじめてカロリーメイトを見た時、一体何なのか分からなかった。カチッとスクエアな箱の中から出てきたのは金属質のピチっとしたパッケージ。フィルムの下から現れたのはこれもやけに四角く成形された物体。食べ物だということだったが、このまま食べていい…

Banksyのこと

Banksy does new yorkの冒頭22分をIID世田谷ものづくり学校で3月6日15時から上映します→ http://setagaya-school.net/Event/15521/ トレーラーの中で「running up to public property and defacing it is not my definition of art (直訳:公共の施設…

シーン32

高畠は若い頃ニューヨークの大学に2年間留学していたらしい。美雪のような田舎の中学生にとってニューヨークというのは世界最先端のオシャレで遠い街というイメージしかなかった。ただ、高畠は最先端でもオシャレでもなく、安物の白いポロシャツと紺のスラ…

just qu-it

金曜日の夜に仕事が早く終わったのだが、村野は嬉しいともなんとも思わなかった。先週末は嬉しかった気がする。先週は楽しい予定があって、今週はそういうものがないというわけではない。先週も今週も忙しすぎない程度に適度な予定が入っていて、それらは全…

広告化社会の繁殖する柔らかな文体

生ぬるく柔らかな文体がネットの発展と広告のより深い浸透に伴い廃屋のカビのように繁殖している。 その文体で書かれた文章を絶対に読みたくはないのだが、不思議なことにとても疲れているときにはその文体で書かれたテキストを読んでしまう。たぶん何も考え…

京都から東京、2月、バイク、引っ越し and all: day 3

三軒茶屋の不動産屋から、下北沢のアパートへ向かう。今度も道は良くわからないが、時間の制限がないので気が楽だ。なんといっても鍵は僕の手の中にある。茶沢通りを北上して途中で一度道を間違えたが、すぐに下北沢。行き止まり路地の多い入り組んだ住宅街…

京都から東京、2月、バイク、引っ越し and all: day 2

ホテルのベッドで目を覚まし、テレビを点けて馴染みのない地域のニュースを見るのが好きだ。内容は特に気にならない。知らない土地で知らない人達が新しい1日をはじめようとしていて、その雰囲気が伝わって来るとどうしてか少し嬉しくなる。僕の知らない地…