動的なIoT、静的なIoT;人工知能とチップを埋めないIoT

 今日、IoTのことが話題に登って、そんなに話をしている暇はなかったのだけど、最近IoTについて自分がどう思っているのかが少しまとまった気がする。
 
 IoTのちょっと未来を考える時、真っ先に頭に浮かぶのはアマゾンがシアトルに作るだか作ったかだかのコンビニで、最初にニュースを知った時はものすごい衝撃を受けた。なぜなら「商品を手に取って出ていくだけで勝手にクレジットカードに料金がチャージされる仕組み」がカメラとAIで作られていたからだ。
 それまで、未来の店舗はもちろん無人化が進むし、自動で会計が行われるようにもなると思ってはいた。だけどそれはICタグみたいな「チップの埋め込み」で実現されるものだとばかり思っていた。多分そう思っていたのは僕だけではないと思う。
 
 ところがアマゾンが見せてくれたのは、チップなんて埋め込まずに人工知能に店内の様子を見せるという離れ業だった。人間がお店の中で、あるいはレジで目で商品を見て確認する代わりに人工知能にそれをやってもらうというのは蓋を開けてみれば極々自然なことで、牛乳のパックからピーマンの袋まで何から何まで全てにチップを埋めるなんて一体なんてバカなことをしようとしていたのだろうとすら思う。
 もちろん、この先チップを埋めるコストはどんどんと下がって、今全ての商品にバーコードが付いているのが自然なのと同じように、すべての商品にチップが入る可能性は残っている。それであっても尚、どんなものでもいいから人工知能に見せて値段を教えておくという便利さには敵わないし。マスプロダクトではなく個々の環境や場所に合わせたユニークな商品がたくさん出回る時代、超多様性の時代が来れば「この製品にはこのチップ」なんて割り当てはやっていられない。
 
 IoTについても、同じことが言える。
 先にIoTを2種類に分類したい。
 1つ目は、動的なIoTで、デバイスをコントロールするという要素が含まれている。例えば自動車に乗るときに家の中から呼んだら玄関まで来てくれるというようなものだ。Dynamic IoTということでDIoTと呼びたい。
 2つ目は、静的なIoTで、こちらはデバイスをコントロールはしないけれど、センサー類で情報は取得するというタイプになる。たとえば、コップに重量センサーが付いていて水の残量を計測してネットに投げるというようなものだ。こちらはStatic IoTということでSIoTとしたい。
 
 以下は後者の静的なIoT、SIoTに関しての話になる。
 
 今は多くの人達がIoTといえば「あらゆる製品にセンサーやチップが入ってネットに繋がる」ということをイメージする。だけど、SIoTに関しては多分そうはならない。目の前のマグカップにもガムテープにもペンにもチップが入るということは起こらない。その代わりアマゾンのコンビニみたいに、部屋の中全体を見渡すカメラやセンサーが導入される。そのシステムはスマホみたいなモバイルデバイスにもインストールされて野外でも使用される。そしてマグカップに入ったセンサーがドリンクの残りを測ったり、温度を測ったり、持ち上げた回数を測ったり、傾ける角度を測ったりするかわりに、カメラ越しにAIがそれら全部の測定を行いデータを蓄積して分析する。今年のCESでちょっと話題になっていた製品に髪の毛の切れる音を感知するスマートブラシがあったけれど、そんな音は部屋のマイクが拾い、ブラッシングの様子はカメラが拾う。デバイスは製品には組み込まれない。
 幾つかの測定には製品に組み込まれたセンサーが必要になるかもしれない。また過渡期にはそういうSIoTが使われるかもしれない。たとえばマグカップに入っているコーヒーの味をスペクトル解析でもして測定するのは至難の技だ。そういう場合はマグカップの内側にセンサーが入るかもしない。あくまでAIによる室内のトータルな分析の補助として、カメラとマイク(つまり室内の電磁波と音波)で測定できないものを測る為にそういったものが活用されることはあると思う。

 ある製品にセンサーとチップが入っていて、ネットなりどこかのコンピュータに伝送するということを少し噛み砕いてみると、起こっているのは「ある製品のある属性をセンサーで取得して電磁波に乗せた信号に変換して発信する」ということだ。発信された電磁波はアンテナが拾う。今良くあるイメージでIoTというときになぜチップを製品に埋め込みたいのかというと、電磁波の形で情報を発信したいからだが、実はチップを埋めるまでもなくあらゆるものは既に電磁波として情報を放射(反射)している。光は電磁波のうち可視光領域の周波数を指して用いられる言葉だが、僕達がIoT化されていない普通のコップの中に残っている水の量を目で見て知ることができるのは光という電磁波が目に届くからだ。これは製品に埋め込まれたチップの発する電波をアンテナが拾うのと良く似ている。チップで信号処理をしてから通信路に情報を送るのではなく、普通の物体からカメラでナマのぐちゃぐちゃな電磁波を拾ってそこから初めて情報処理を行うという風に計算部分が発信側から受信側に移っている。各製品に小型なチップを載せたとしても、消費電力も限られていてそれらのプロセッシング能力はどうしても限定されるが、一方、受信側はネットワークと電源に直結していて膨大な計算機資源を持っているわけだから、情報処理の全てをこちらに任せるのは合理的ではないだろうか。
 
 このようにSIoTでは「周囲一体を感知するカメラとマイク+パワフルなAI」が求められる。
 またアマゾンを持ち出すけれど、当然アマゾンのエコーはこれを目指しているはずだし、すでにそうであるようにDIoTは滑らかに連結される。
 だからIoTというのは半分AIで実現するもので、AIのスーパーなスマートさが、全然スマートじゃないその辺のものを全てスマートに扱い、さらにチップの搭載されたちょっとスマートなものもスマートに扱うということになるのではないかと思う。