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FAB12, 深セン:その1

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  2016年8月8日から15日までの1週間、中国の深センに滞在した。FAB12という年に一度開催されるFabLab世界会議に参加する為だ。FabLabというのは、3Dプリンタをはじめとしたデジタル工作機器から金槌のような道具までを備えた工房のようなもので、世界中に1000近いFabLabが存在している。世界のFabLabは名目上ネットワーク化されていることになっていて、そのネットワークに参加している人達が年に一度集まるというのが今回のイベントに当たる。

 FAB12がはじまる丁度前日、8月6日、7日がMaker Fair Tokyoだった。僕は7日に少しだけMaker Fair Tokyoに行き、そのまま所用を片付けて夜中の12時過ぎに成田第二ターミナルへ到着。ターミナル内にあるカプセルホテル「9hours」に泊まる。フライトは8日の朝で、家からでも始発に乗ればギリギリ間に合う筈だったが、何かあったら終わりなので念の為に一泊することにした。9hoursはデザインカプセルホテルといった謳い文句のホテルだが、ロッカーとカプセルがとても遠くて使い難いし二度と泊まることはないだろう。ずっと忙しかったので、出国前にこれ以上疲労したくないと思いホテルを取ったのだが、どうせ6時間程度寝るだけだったので、こんなホテルなら空港のベンチでも良かったなと思う。 
 8日、早朝の空港内シャトルバスで第一ターミナルに移動して、待ち合わせなどを済ませてチェックインする。
 飛行機は中国国際航空で、利用するのははじめてだった。中国国際航空のサイトによれば機内持ち込み手荷物は「5キロまで1つ」となっていて結構厳しい。僕は余程のことがない限り、原則的には機内持ち込みの荷物だけで旅行をすると決めているので、それを読んだ時一瞬怯んだ。いつもはなんとなく大丈夫だろうとパッキングしているけれど、今回はきちんと測ってパッキングすることにした。バックパックにMacBook AirとACアダプターを入れるとそれだけで既に2.4キロ。残り2.6キロで勝負しなくてはならないので、あまり余計なものは持っていけない。
 結局、荷物は5キロに収めたが、実際の搭乗に際しては重さも数も大きさもあまり気にされないようで、みんなてんでバラバラ自分勝手に色々なものを持ち込んでいた。飛行機では他のFabLabの人達とも一緒になり、さらに昨日のMaker Fairでも一緒だった人達なので、そういう日程の最中だなと思う。

 

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  深センを訪ねるのは、3年ぶりだ。3年前、僕達は一緒に暮らしていた友達6人で香港へ遊びに行って、そのついでに深センまで船で行って数時間滞在し、電車で香港に戻った。当時の僕は深センがどういう位置付けの都市なのか全然知らなかった。世界最大級の電気街、華強北路(ファーチャンペー)を擁する製造業の街でハードウェアのシリコンバレーなどと呼ばれていることは知らなかったし、わずか30年で何もない場所に出現した高層ビルの並ぶ都市だということも知らなかった(1980年に経済特区に指定されて急激に発展した)。友達の1人がどうしても行きたいというので「世界の窓」というチートなテーマパークへ行っただけだ。世界の窓というのは深センの有名観光スポットだが、たとえばスフィンクスとかエッフェル塔みたいなものをサイズダウンしたレプリカがいくつも置いてある遊園地で、完全に子供騙しだった。その1人の友達が「ネタ的に」そこへどうしても行きたいというので、他の5人は渋々着いて行ったのだ。どこへ行ったって楽しく過ごせるメンバーだったのでそれなりには楽しかったが、僕達は深センまで足を伸ばして街の特性を一切目にすることなく戻ってきたことになる。
 そのときの深センの印象はただ1つ「建物が巨大」というものだった。
 今回もやはり建物が巨大だと感じた。未来的な形状の深セン国際空港から地下鉄で1時間ほど、ホテルのある華強路駅で降りて地上に出ると深南中路という大きく真っ直ぐな道路の両サイドに高層建築物が立ち並んでいて、その眺めはずっと遠くまで続いていた。遠くの方はスモッグか何かで霞んでいる。すでに昼下がりだったが、日差しは南国の強度を持ってして地面に突き刺さっていて、僕はSPF50の日焼け止めを塗ってサングラスを掛けた。自動車と電動バイクと人々が混沌と移動する逃げ場のない炎天下を歩きホテルを目指す。信号が意味を失っていて、自動車と電動バイクと歩行者がお互いの隙を突いて移動する光景はいかにもアジアぽく、なんだか肩の荷が降りたような気がする。心の中のある部分が開放されてすっきりとした快適さが背骨を駆け抜ける。

 

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 ホテルにチェックインして、一休みし、再び地下鉄に乗ってFAB12の会場へ向かう。といっても今日の予定は夕方からのパーティーだけだ。会場はシェラトンで地下鉄は2駅離れた会展中心(Convention and Exhibition Center)。一応ファイブ・スター・ホテルなので、随分豪華なところを会場にしたのだなとは思っていたが、正面入口とは別の入り口から入った僕達には、ここがFAB12の会場だとは認識できないくらい豪華なところだった。きっと間違えたところに来てしまったに違いないと思いながら、ビシっとタキシードみたいな服を着込んだ”ここで働いている人”風の男の人に「あの、シェラトンの6階に行きたいのですが」と聞いていみると、「それはここです」ということで、すぐ近くにあったFAB12の受付まで案内してもらった。

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 そうそう、こういう感じだ。
 受付付近には多種多様な人達が集まっていて、ほっとする。そしてメイン会場の豪華さに、また吃驚する。会場が豪華なことは嬉しいことだけど、少しだけ違和感もあった。何もファブとかメイクとか言っている人間は慎ましくしているべきであると言っているわけではないが、豪華絢爛なのはどこかそぐわない。
 受付を済ませて、例の冊子とか記念品の入ったトートバッグとパスと記念Tシャツを受け取って、適当にその辺をウロウロしている人達と話をしたりしてパーティーが始まるのを待っていたら、いつの間にかワイングラスを持っている人が目に入るようになってきて、いつの間にか立食の食べ物を持っている人達が目に入るようになってきた。そうして済し崩し的に何のアナウンスもないままパーティーは始まっていた。

 パーティーでは色々な人に会った。懐かしい人にも、昨日のMaker Fairで会った人にも会った。「良太!」と呼ばれたので誰かと思えば、4月に台北で会った女の子で驚く。今回のスポンサー企業の1つに就職したらしい。人事ながら4ヶ月で人は全く変わった環境に身を置いていたりするのだなと思う。

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 済し崩し的に始まったパーティーは、簡単なアナウンスと共にこれも済し崩し的に終了を迎え、僕達はまた地下鉄に乗ってホテルへ戻った。
 まだそれ程遅い時間でもなかったので、1人で外へ出て、セブンイレブンでアイスクリームを買いホテルの周囲を散策してみる。街には活気と気だるさが同居していて、その辺に座ってビールを飲んでいる人達や、上半身裸で電動バイクに乗っているおじさん、どうしてこんな場所でと思うところでバドミントンをしている子供とかがいて、鳴り止まないクラクションが煩いのに身体がリラックスするのを感じる。ここは相手の心を慮り自己の利益を最大化するための自然な誘導方法を構築することがデフォルトである日本語の外の世界だ。
 ココナッツのアイスキャンデーが溶けて来て、残りの大きすぎる塊を全部口の中に入れてしまった。冷たいほっぺたにアジアの暑く湿った空気が心地いい。

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