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「ベイマックス」の構成とテーマ;ハートより視点転換

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 「お涙頂戴やさしいって素敵だね物語」ではなく、「ギークの為のアクションSF」であるという評判を聞いたので、それならと「ベイマックス」を見てきました。
 この映画については4点書きたいことがあります。

 1,映画のテーマは何か。
 2,ロボットと人間と記憶と私。
 3,アメリカの都市とアジアの雑踏。
 4,やっぱりスーパークールなサイエンス。

 それではまずテーマについて。
 ベイマックスは日本では「心温まるちょっと悲しい物語」として宣伝され、アメリカでは「ギークアクションSF」として宣伝されているという話ですが、この映画のテーマは「見方を変えてみよう」「視点を変えてみよう」というものです。愛でも仲間でもハイテックでもヒーローでもなく、テーマは「見方を変えてみよう」です。
 「ん?何いってんの?」と思われるかもしれないので、映画の構造について少し書きたいと思います。

 アメリカの映画はかなりカッチリとしたルールに則ってシナリオの練られたものが多いですが、この映画は典型的なハリウッド的シナリオの上に成立しています。
 下に示すのはブレイク・スタイナー・ビート・シートという、こんな感じで話を進めるのが良いというお手本です。カッコの数字は全部で110ページのシナリオの何ページ目かを表しています。だいたい2時間弱の映画ならそのまま経過分数ですね。

 1、オープニングイメージ(1):ファイナルイメージと対になる掴み。
 2、テーマの提示(5):映画のテーマを提示。
 3、セットアップ(1〜10):ここまでで映画の登場人物を全員出してどんな映画か分かるようにする。
 4、きっかけ(12):物語が加速する為の事件が起きる。
 5、悩みの時(12〜25):起こった事件に対して主人公はどう行動するか悩む。
 6、第一ターニングポイント(25):物語が大きく転換。
 7、サブプロット(30):一休みして本筋の話とはちょっと違う話を挟む。
 8、お楽しみ(30〜55):「これこれ、この場面が見たかったんだ」と鑑賞者が喜ぶサービス盛り上がり場面。
 9、ミッドポイント(55):盛り上がり絶頂、あるいは、最低最悪。
10、迫り来る悪い奴ら(55〜75):敵に急接近。
11、全てを失って(75):敵にやられるだけでなく、味方まで失ったり。死の気配がある。
12、心の暗闇(75〜85):絶望したりダークサイドに堕ちたり。
13、第二ターニングポイント(85):大転換その2。
14、フィナーレ(85〜110):大団円。
15、ファイナルイメージ(110):同じような場面設定で欠点だけが克服されていたりする形でオープニングイメージと対になる。

 ベイマックスはファイナルイメージが第一ターニングポイントと対になっている以外、ほとんど完全にこの通りのシナリオです。(ネタバレ注意)

 1、オープニングイメージ(1):ロボットファイト。工科大学見学。
 2、テーマの提示(5):大学入学テスト用の発明の為に「見方を変えてみよう!」とタダシがヒロに言う。
 3、セットアップ(1〜10):ヒロ、タダシ、大学の仲間、教授、品評会での実業家、ヒロのおばさん、ベイマックス、猫のモチ、全員ここまでで出ている。
 4、きっかけ(12):ヒロ大学に合格するも、直後に火災で教授、タダシ共に死ぬ。
 5、悩みの時(12〜25):タダシが死んでヒロ落ち込む。大学入学も保留。
 6、第一ターニングポイント(25):ベイマックスが「痛い!」を聞いて起動。追いかけるタダシ。店を出るとき急いでいるのにおばさんがハグをしてきて邪魔。倉庫発見。敵「カブキマスク登場」ベイマックスを改造して戦うも負けて大学の仲間に助けてもらう。
 7、サブプロット(30):フレッド、実はお金持ちで大豪邸にはオタクグッズがたくさん。
 8、お楽しみ(30〜55):改造してパワーアップ。パワーアップしたみんな。空を飛び回るベイマックス。
 9、ミッドポイント(55):そのまま島を見付けて攻めこむ。
10、迫り来る悪い奴ら(55〜75):島へ攻め込むも負ける。カブキマスクの正体が教授とわかる。
11、全てを失って(75):ヒロ、ベイマックスからタダシの看護チップを取って凶暴にし教授を殺そうとする。止めに入る仲間まで。
12、心の暗闇(75〜85):ヒロ、仲間を置き去りにして教授を追う。
13、第二ターニングポイント(85):ベイマックスがタダシの映像を見せてヒロが我にかえる。
14、フィナーレ(85〜110):みんなで再び教授と戦い、形勢が不利な状態でヒロが「見方を変えてみよう」とみんなに言うのがきっかけで勝利。ベイマックスは自己犠牲。
15、ファイナルイメージ(110):ベイマックスのチップを見付けて再生。みんなでおばさんの店から大学へ。おばさんにハグをヒロから求める。

 テーマの提示を行うことになっている5,6分経過した辺りで「見方を変えてみよう」とタダシに言わせていて、同じセリフをクライマックスでヒロに言わせているので、これがこの映画のテーマです。もちろん、2時間弱の話には細部を含めて色々な要素があり、色々なメッセージを汲み取ることが可能ですが、設定された一番のテーマは「見方を変えてみよう」に間違いありません。
 宣伝と相まって、特に日本ではベイマックスが愛とかやさしさとかハートフルなものをテーマに掲げただけの映画だと思われていそうなので、一先ずシナリオ構成の観点からテーマを抽出して提示しておくのも意味があるかと思い書きました。
 ベイマックスは「見方を変えてみよう!」という映画です。(続く)

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