西海岸旅行記2014夏(47):6月18日:カールスバッドの長く短い夜


 ミッドウェイ博物館を出た後、どこか気分の良さそうなところでゆっくり書物でもできないかと思っていたが、海沿いは大抵だだっ広くて日光もきつい。なかなか良さそうな場所がないので、面倒になってカールスバッドまで戻った。お腹が空いていたのでクッキーを買ってマックンの部屋に戻る。書物をするならここが一番いい。結局1時間もしないうちにマックンも帰ってきて、夕飯に出ることにした。

「何がいいかな?」

「まあなんでもいいんだけど、結構日本食とかがいいかも」

「それだったら、僕が同僚とランチに行きまくってる日本食の店あるから、そこ行こうか」

 彼のチームは、インド人とか中国人とか、主にアジア人を中心にして構成されているのだが、中華の店もインド料理の店も色々と回って、結局はその日本食の店に落ち着いたらしい。実際に行ってみると、繁盛しているカジュアルなお店だった。適度に広くて眺めもいい。店の人は日本人で、客の多くは地元の人だと思う。僕もマックンも焼き鯖定食を注文した。8ドルくらいで、日本の定食屋と同じ感じのものが出てくる。
 おいしい。
 僕はさっきかなり大量にクッキーを食べていたので、夕飯なしでもいいかと思っていたくらいだが来て良かった。

 もう間もなくこの旅行は終わってしまうけれど、実は残りの滞在や機内食では僕は一切欧米っぽいものを食べていない。日本食か韓国料理だけ。それ以外の食べ物は全然食べたくなかった。
 これには自分でもかなり驚いた。
 まず、僕は「食べ物は興味ないし栄養があればなんでもいい」と普段公言しているし、加えて日本にいるときだって日本っぽい食べ物を食べるよりは外来の食べ物を食べることの方が多い。海外に行くと日本食が恋しくなるとか、訳の分からない一昔前の迷信だと思っていた。
 でも、迷信ではなかったのだ。このとき食べた焼き鯖定食は本当においしかった。翌日食べたトンカツ定食も、機内食のビビンバもプルコギも。パンとかパスタではない、米食圏の料理が骨身に染みておいしかった。くそっ、これじゃまるでコンサバティブな老人じゃないか、と思うけれどそうだった。

 満腹になった僕達は、近所のスーパーマーケットへ寄ってチーズやビールやウィスキーを買った。明日はマックンも休みで、特に時間の制限はない。お酒を飲みながら、彼はもう免許取得間近のセスナについて色々教えてくれた。

「アメリカの怖いところはさ、セスナの免許取る学校に入ったら、別に何にも申し込んだりしてないのに、勝手に家に”セスナ学校補修コース”とかシュミレーターのパンフレットが送られてくるようになって、免許取れる時期になって来たら、今度は勝手にこういうの送られて来る」

 マックンは僕の前に何冊か、セスナ機やセスナ機グッズの載ったカタログを広げてくれた。個人情報は駄々漏れというわけだ。
 その後、テキストなんかと一緒にパイロットの使う地図を見せてもらった。
 空に空域という概念があって、たとえば空港の周囲を勝手に飛んではいけないとか、色々決まりがあるのは知っていた。でもここまでとは思わなかった。
 見せてもらった地図によれば、空はびっしりと空域境界で仕切られていて、「空を自由に飛ぶ」なんて概念からは程遠い。

「えっ、こんなに細かく分かれてるの?!」

「そうだよ、今はiPadのアプリとかあるから便利だけど、ちょっと前まではこれを頭に叩き込んでたんだね」

 彼は学部時代から車も買い替えたり改造したり、持ち物も大抵のものはいいものをサラッと揃えていて、なんでも上手くこなす優秀な男だったが、ついにセスナを操るようになった。
 身につまされる。僕も空を飛びたいとずっと思っていたのだが、未だにパラグライダーすらやったことがない。
 足元を見ないでぼんやり口にしていただけということだ。
 「いつかアメリカで研究生活」というのと同じように。
 マックンは「僕は社会の歯車でいいから」と就職したかと思うと、あっという間にアメリカで研究生活を送るようになった。そして、セスナで空を本当に飛びまわる。さらに僕が途中でやめてしまった博士号も、彼は就職してからの研究であっさりと取得。
 なんとも歴然とした差だが、まあそれはそれだ。

 今の研究の話も色々聞かせてもらった。二人共バックグラウンドは電子情報で専門が物性なので、話はしやすい。
 思い出話もいくらでもあった。
 時計が1時を回ったのは二人共覚えている。
 しゃべり続けて、「あれっ、外明るくない?」と時計を見ると朝の5時を過ぎていた。

 「えっ、ウソ、まじか?!」

 「やばいな、こんなの久々だ、とにかく寝よう」

 実は、マックンとは2人で行動したことがそんなにはなかった。大抵イマムラ君がいて3人で動くことが多かったので、今回も「泊めて」というのには多少の遠慮があった。けれど、泊めてもらって本当に良かったと思う。友達は本当に大事だと思った。かなり照れくさいことだけど。
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