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西海岸旅行記2014夏(32):6月15日:リトル・トーキョー、ゲッコー・テック拒否される

西海岸旅行記



 翌朝、テレビを点けると"X games"をやっていてアメリカだなと思う。
ホテルは13時までにチェックアウトすれば良かったけれど、ランチの約束があったので12時半にチェックアウト。ポーチで駐車場係に車を取ってきてもらってチップを渡す。僕は1ドルしか渡さなかったけれど、前のおじさんは何枚かの紙幣をクルクル丸めたものを渡していた。車を取ってくる毎にチップをもらっているわけだから、それだけでもまあまあな稼ぎになるのだろう。

 アメリカではレストランなんかでのチップが大体15%で、基本的に外食は日本よりやや高いくらいなので、チップの額もそれなりになる。ウエイトレスやウエイターにとっては結構な収入源だが、払う方にとってみればそれなりの痛手だ。払う方はさらに税金も払わなくてはならない。カリフォルニア州はセールスタックスが9%掛かるので、税とチップで24%。つまり、外食に10万円の予算を当てていたとして、実際にはメニュー上の額面で8万円分しか食べれないことになる。
 まあ金額のことはいいとしても、こんな七面倒なシステムはなくして欲しい。

 ロサンゼルスのダウンタウンにある日本人街「リトル・トーキョー」、そこのカジュアルな日本食レストランで僕達はランチの待ち合わせをしていた。例によって仮名だけど、彼女はビッキーという名前の女の子で、クミコのロサンゼルス時代の友達だ。ずっとハリウッドに住んでいるビーガンなのに野菜が嫌いな女の子だと聞いていたので、なんとなく気難しい人ではないかと先入観を持っていたけれど、物腰の柔らかいシニカルな女の子だった。

「こっちで、The Standerdに泊まるなんていうからびっくりした。どうだった?」蕎麦サラダを食べながらビッキーは含み笑いをした。
 
「うん、良いホテルだったよ。」

 僕は天ざるを食べながら答える。関空を出てインチョンについた頃から無性に蕎麦が食べたかったのでちょうど良かった。リトル・トーキョーには道路に「福」印の提灯が掛かっていたりとなんだかおかしな所はあったが、このお店はちゃんとした天ざるが出てきた。とてもおいしい。クミコは何かのドンブリを食べている。

「本当に? 人はどうだった、人は?」

「うーん…」

「クレイジーでしょ。ほんっとに、あの人達」

 ビッキーの仕事のクライアントにはハリウッドの俳優たちが含まれる。仕事はなにかと大変みたいだ。
 一頻り話した後、僕はゲッコー・テックを取り出してビッキーにあげようとしたのだが、彼女は「いらない」と受け取ってくれない。遠慮とかではなく頑としてまったく欲しくないようだった。

 ゲッコー・テック(ヤモリのテクノロジー)はストアデポに寄った時、僕が一目惚れして買った吸盤付きのフックで、値段はサイズにもよるけれど、5ポンド(2.3kg)まで掛けれるのは1つ6ドルくらいする。僕はそれを買った。なんでそんなものに6ドルも払ったのかというと、もしかしたらこれは本当にバイミミック(生物模倣技術)製品かもしれないと思ったからだ。
 吸盤付きといってもだたの吸盤ではない。真っ平で、普通の吸盤みたいにお皿形に凹んでない。真っ平。壁に両面テープなんかでくっつけるタイプのフックを思い浮かべてもらえばいい。違うのは、両面テープなんていらない点だ。平らな面にペタッと着けるとくっついて、端から剥がすとさらっと剥がれる。何度でも着けたり剥がしたりできる。
 パッケージ裏面に「革新的な微小吸着技術」と書いてあるので、ちょっと本当のヤモリのバイミミックではないみたいだなあ、と思いながら買ったのだけど、あとで調べたところでは微小な吸盤が吸着面にたくさん造形されているみたいで、ヤモリの足とは関係がないみたいだった。ヤモリの足は小さい吸盤ではなくファンデルワールス力で壁にくっつく。

 まあヤモリと関係ないにしても、バイミミックではないにしても、この製品にはかなり惹かれた。僕はお土産否定派なので、旅行に行ってもまずお土産なんて買わないのに、思わず何個かお土産用に買ってしまったくらいだ。そして買ってすぐに自分の分を車の窓に貼ったりして浮かれていた。

 そのゲッコー・テックを、満を持してビッキーにあげたら、完全完璧にまったく欲しくないしそんなのもらっても迷惑だという感じで断られたわけだけど、まあいいや、お土産が1つ節約できたことにしよう。
 (さらに残念な後日談としては、日本に帰ってきたらダイソーに同じようなものが売っていた。)

ヤモリの指―生きもののスゴい能力から生まれたテクノロジー
早川書房