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西海岸旅行記2014夏(21):6月11日:シアトルからサンフランシスコ、ブルースの眠る丘


 たくさんある中から、ブルース・リーのお墓を見つけ出すのは困難に思えるが、グーグルマップに表示されるのでGPSを頼りに歩けばなんてことはない(それでも少し探したけれど)。ブルースの墓は、息子ブランドン・リーの墓と隣合わせで並んでいる。僅か32歳で生涯を閉じた父と、同じく僅か28歳で死んでしまった息子の墓には、ファンが供えたのかいくらかの花が置かれていた。
 墓の前に置かれた石のベンチに座っていると、東洋人の青年が1人やって来た。

 ブルース・リーの墓参りを済ませて、お墓の中を歩いていると結構な数の中国人のお墓があることに気付く。中国人というのは本当にたくましい人々だなと思う。それらに混じって日本人のお墓もいくつかあった。
 バスに乗って、再び街に戻る。
 パイク・ストリート・マーケットで食べ物を買い込んで、グリーン・トータスで荷物を受け取り、電車に乗って今度はシアトル・タコマ国際空港を目指した。空港からはサンフランシスコまでアラスカ航空で1時間くらいのフライト。

 国内線だからと油断していたら、身体検査が金属探知機ではなくてX線のやつで、ベルト(全部プラスチック)とポケットに入れていたパスポートが引っかかる。係のおじさんに小言を言われながら、手の化学物質検査も受ける。飛行機は座席が一つ壊れていて、それを今から修理するとのことで少し遅れた。
 ちょっと遅れた後、ちょっと耳の痛い小ぶりの飛行機でサンフランシスコへ。

 サンフランシスコ国際空港の窓から見える景色は、シアトルの景色とは全然違った。荒涼とした若草山みたいな丘が遠くに見えて、そこに霧だか雲だかが掛かっている。空港の周囲を曲がりくねった高速道路が縦横無尽に走っている。空港ではレンタカーを予約しているので、ここからは車の旅だ。荷物を抱えてウロウロと電車に乗ったりバスに乗ったりということはもうしなくてもいい。
 空港内を走っている電車に10分ほど乗ると、レンタカーセンターの巨大な立体駐車場に到着する。電車を下りると目の前にレンタカー会社のカウンターがずらりと並んでいて、人々が電車からカウンターへと我先に移動していく。僕は日本からエイビスを予約していたので、エイビスのカウンターへ並ぶ。

 このカウンターで、僕はアメリカの洗礼を受けた。というか、気を抜いて失敗した。
 カウンターの男は早口でベラベラと捲し立てるので、僕の英語能力では理解しきれない。帰国子女で完璧な英語を話すクミコでもちょっと厳しいみたいだったので、僕には分からなくて当然だ。そして英語以前に、レンタカーのシステムが細かくてややこしくて訳がわからない。勧められた「もっといい車」を拒否する辺りまでは良かったが、液晶画面に次々に表れる何かの何かにサインを次々求められてパンクした。トータルの値段はどれだ?

「ちょっと待って、これって料金どうなってんの?」

 彼はこう答えた。「心配しなくても、すでに日本で支払い済ませてるじゃないか、大丈夫だし、ささっとサインして」

 確かに、僕は日本で予約と支払いを済ませていた。早割みたいな感じで、「今なら3割引き」という感じのキャンペーンに乗っかったのだけど、それだと10日間のレンタル代と、サンフランシスコで借りてロサンゼルスで乗り捨てる手数料を入れて4万円くらいだった。どう見てもそうなんだけど、あまりに安いので「小さい字で書かれた注意」みたいな罠があって、実際にはもっとたくさん請求されるんじゃないかという危惧を抱いていた。
 その嫌な予感が的中しそうな雰囲気になっていて、ここはアメリカっぽく強気で行くべきだったのだが、すでに疲れていたのとカウンターの忙しい雰囲気に飲まれて「最悪でも1,2万余計に請求が付くだけだろう、もういいや」という気分になってしまった。
 敗北である。
 この旅行で唯一後悔していることは、ここで「もういいや」という気分になったことだ。
「あなたの説明は分かりにくいから、他の人に代わってくれ」とか、「トータルの値段をここにサイン入りで買いてくれ」とか、色々言うべきだった。
 結果的には、最初の支払いとは別に160ドル程の追加料金が僕のカードに来ていた。

 浮かない気分ではあるものの、車の手続きは済んだ。
 日本のレンタカーみたいに、係の人が乗る車に案内してくれて、一緒に外装の傷をチェックしたりとかそういうことはしない。車の駐めてある場所の番号を教えられて、カウンターではそれで終わりだった。鍵も渡してはもらえない。そのままとても巨大な立体駐車場へ出て行って、教わった番号の区画に駐めてある車に乗り込む。車は窓が開けっ放しになっていて、もちろん鍵も刺したままになっている。
 僕達の車は、下から2番目のグレードで、フォルクスワーゲン「Jetta」。
 色は真っ赤。
 料金のことがモヤモヤするが、僕達は今日からこの車の世話になる。

現代思想 2013年10月臨時増刊号 総特集=ブルース・リー 没後40年、蘇るドラゴン
青土社