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西海岸旅行記2014夏(16):6月9日:ポートランド、エースホテル、フードカート


 翌日、僕達が起きるとケリーはもういなかった。昼頃までゆっくりと身支度して、書き置きを残して家を出る。2泊もするとすっかり馴染んで少し寂しい。今日も快晴だ。乗り慣れたバスに乗り、MAXに乗り換え、とりあえずは荷物を置きにエースホテルへ向かう。

 ホテルへ着くと早速ロビーで日本人を3人見掛けた。ポートランドでは8人程の日本人を見掛けたが、そのうち6人くらいはエースホテルのロビーでだった。
 荷物を置くだけのつもりが、意外なことにチェックインできるというのでチェックインする。フロントで「ポートランドははじめてか?」と聞かれ、そうだと答えると、ヒゲとメガネで少し太った彼は「ポートランドへようこそ」と笑顔で言った。癪に障る。
 鍵を手にした僕達は、エレベーターのボタンを押したがなかなか来ないので途中で諦めて階段を登った。あとでエレベーターを一度使ってみたけれど、古くてガタつくエレベーターだった。こういうのがいい、という感性のことを僕は理解できる(積極的に好むかどうかは別として)。このホテルは基本的にはそういうビンテージ風でできている。

 昨今の一応おしゃれに気を使っている商業施設には、大きく3つのタイプがあると思う。

 1つ目は分かりやすいモダンでミニマルなものだ。直線を基調とした幾何学的な構成と打ちっ放しのコンクリート、1851年のロンドン万博からの伝統、スチールと広いガラス採光。禁欲的な、いわば一昔前までの「ザ・建築」。

 2つ目は、無垢でシンプルでナチュラル!なもの。こちらも禁欲的というか、欲望なんてこの世界には存在していない、というようなふりをしている。オーガニックコットンの服を着た女と、ボーダーの服を着た男が、オーガニックコーヒーを飲みながら村上春樹の本を読んでいるような場所だ。セックスがないことと、簡素な木製の家具が修道院を連想させる。

 3つ目は今一番「センスいい!」と言ってもらえるもので、「ビンテージ+植物」で構成される。植物はだいたい多肉植物が選ばれる。ビンテージというのは、リノベーションとかリサイクルと同一のベクトルに存在していて時代にマッチしている。コストも安い。植物も自然回帰、田舎回帰の現代にしっかりマッチしている。ちょっと変わったビンテージの何かをリサイクルした器に植えたちょ っと珍しい多肉植物を持っていると女の子にモテる。そう「女の子にモテる」。前に上げた2つは禁欲的で性別を超越していたが、この「ビンテージ+植物」という分野にはどうしてか男性的なにおいがある。古くて錆びた金属とかそういう質感は「女子!」とか「かわいい!」から遠い。

 エースホテルは、この3つ目に分類される商業施設だ。だから少し男性的な雰囲気がある。ベッドサイドの電話が、古い軍物っぽいスーツケースの上に置いてあるし、全体の色調がカーキ、ベージュ的な渋い男性的トーンになっている。ただし、間違えても「黒とレザー」みたいな古臭い男性的トーンにはなっていない。大人ぽいものが好きな若者のセンス。鍵もしっかりした金属の昔ながらの鍵だし、洗面台にもハンドソープボトルは置いてない。代わりに小さな石鹸が紐でぶら下げてある。僕は基本的にハイテックの人間なので、全面的にはいいと言わないけれど、シンプルなのは気持ちいい。

 荷物を置いて一休みした僕達は、今日のミッション第一をこなすために部屋を出た。なんとしても蕁麻疹の薬を買わなくてはならない。フロントで尋ねると、近所にターゲットがあると教えてくれたので、早速そこへ行って、効ヒスタミンの飲み薬と、念のため痒み止めの塗り薬を買った。結果的には、抗ヒスタミン剤の効き目は抜群で、この日からクミコの蕁麻疹はまったく出なくなった。10日分を飲みきって、日本に帰った後も、もう薬なしで全く出なくなっていた。僕が高校生のときに蕁麻疹でかかった医者は、どうしてこういう薬を出してくれなかったのだろうか。

 薬さえ買ってしまえば、もう安心だ。効き目のほどはネットで調べてあった。もう昼下がりだったので、お腹を空かせた僕達はサウス・ウエスト・アルダー通りにあるフードカートの集まっている駐車場まで歩いて行って、簡単な昼食を摂ることにした。
 ポートランドで有名なものの一つに、このフードカートがある。まあただの屋台なんだけど、駐車場の車一台分のスペースに置かれた小さなカートが、それぞれに多種多様な食べ物を売っている。ポートランドにはフードカートがたくさんある、と色々なところに書かれているので、どんなにあるのかと思ったけれど、実際にはそんなにたくさん見かけなかった。昨日テキサスに帰っていったソルティは「オースティンの方がもっとあるけど。。。」というようなことを言っていた。

 とはいうものの、フードカート自体はとても良いシステムだ。僕はラムジャイロを、クミコはファラフェルジャイロを買って、近所の公園で食べた。それぞれ5ドルだけど、大きいし美味しい。アメリカに来てはじめて安くて美味しいものを食べたと思う。僕達がソースと油で口の周りをベタベタにしながらジャイロを頬張る隣では、レポートを書いている途中の男子大学生が2人地面で寝ていて、前方へ目をやるとこれもまた地面の上でおじさんが1人犬を抱きしめて眠っていた。犬は窮屈そうに顔を出して、そこら中歩きまわっているハトを眺めていた。

グリーンネイバーフッド―米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた
吹田 良平
繊研新聞社