西はりま天文台訪問記03;宇宙人はいるのか?


 観望会の翌朝は雪だった。
 ロッジのチェックアウトを済ませた後、ミュージアムショップでも覗いて帰ろうと天文台北館へ行くと、天文台で作成された動画が流れていて、僕達がそれを見た時、画面では昨日の観望会でお世話になった鳴沢さんが"SETI"の話をされていた。

 その後、もう一度「なゆた」を見て、パネル展示も眺めていると、西はりま天文台で研究されている方々の紹介パネルがあり、鳴沢さんの自己紹介には「宇宙人を探しています」と書かれている。
 そうか、鳴沢さんは宇宙人を探されているのか。
 そういえば観望会でも何度かチラリと地球外生命体に言及されていたなあ。

 SETIというのは、Search for Extra-Terrestrial Intelligenceのことで、日本語では「地球外知的生命体探査」と訳される。いわゆる「宇宙人探し」のことだ。
 どうやって宇宙人を探すのかというと、基本的には、宇宙にアンテナを向けて、彼らが送ってくるであろう「不自然な」電波を受信してである。それだけではなく、送られてくるであろうレーザーを探したり、こちらからシグナルを送ったり、いくつかの方法があるようだけど、詳細は鳴沢さんの著書「宇宙人の探し方」にお任せするとして、ここでは個人的にSETIのことを書きたいと思います。

 実は、僕もSETIとは全く無関係というわけではありません。
 かなりカジュアルにですが、参加していました。
 SETIには、SETI@home ( http://setiathome.berkeley.edu/index.php )という、実に素敵なプログラムがあり、文字通り家からSETIに参加できるのです。実にカジュアルですね。

 SETIでは宇宙からの電波を解析して、宇宙人が発信したのではないかと思われる電波を探し出すわけですが、広い宇宙からの電波を24時間解析し続けるには、膨大なコンピュータ・リソースが必要となります。とても1つの研究施設では賄いきれません。

 そこで、電波望遠鏡で取得したデータと解析ソフトを、インターネット経由で世界中のボランティアのパソコンに送り、それぞれのCPUで計算をしてもらう、という作戦が取られました。
 つまり分散コンピューティングです。SETI@homeは極めて成功した分散コンピューティングの1つだと思います。

 僕もかつて研究室のパソコンにこれを載せていて、スクリーンセーバーの代わりにSETI@homeが起動するようにしていました。
 ひょっとしたら目の前で、自分のコンピュータで、宇宙人からのメッセージを発見できるかもしれないという期待にワクワクしながら、クールな解析過程のグラフィックを眺めるのはとても素晴らしい気分です。

 もしも見つからないとしても、自分の元に送られてくるデータの出先を考えると胸が高鳴ります。
 SETI@homeで送られてくるデータは、プエルトリコにあるアレシボ天文台で取得されたものですが、アレシボ天文台には世界最大、直径305メートルの電波望遠鏡があります。

 アレシボ天文台Arecibo Observatoryのグーグル画像検索結果
https://www.google.co.jp/search?q=Arecibo+Observatory&espv=210&es_sm=122&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ei=L879UvDrB8ejlQWX-IDQBA&ved=0CAsQ_AUoAw&biw=780&bih=362

 こんな凄い設備から、僕のパソコンなんかにデータを送って貰えるわけです。それだけでも、どうあったってワクワクします。
 だんだんとパソコンで大きな計算を走らせたままにすることが多くなり、SETIのプログラムは削除してしまいましたが、ほんの微かにでも参加できたことを嬉しく思います。

 さて、「SETI@homeに参加していた」と書くと、「じゃあ、宇宙人がいると思っているのか?」という質問が飛んでくるのではないかと思うのですが、僕は「どちらかというといるんじゃないかなあ」と思っています。

 これには前提が1つあります。
 それは、「世界が僕達の科学が捉えているような感じのものである」ということです。
 説明しにくいので言い換えますと、「僕達の世界が、何かの作り物ではないなら」ということです。
 たとえば、もしもこの世界が誰かの作り出した仮想世界であって、僕がその中に放り込まれただけだとしたら、その誰かは別に宇宙人なんて作っていないかもしれません。ここがもしもマトリックスの中であれば。宇宙人どころか、他の人達だって。僕はこれを誰かに読んでもらえるだろうと信じて書いているわけですが、もしかしたら読者なんて1人もいないのかもしれません。全てはただのプログラムなのかもしれません。ブラックホールどころか、月も地球もないのかもしれません。

 でも、特に根拠はありませんが、僕はここがマトリクスの中ではないと信じています。あの人にもこの人にも意識があり、僕はこの世界でひとりぼっちではないのだと信じています。
 同時に、これまで人類の科学が築いてきた世界認識は、ある程度まで正しいのだろうと信じています。つまり、僕達の物理学は宇宙の彼方ででも通用して、天文学が捉えた宇宙像はある程度まで正しいのだろうと。これは全く不思議なことだけど、生命は化学反応の賜物として生まれたもので、けして神がサクッと作ったものではないのだろうと。

 そうであれば、このメッチャクチャに広大な宇宙の中で、地球人がひとりぼっちだとは、僕には到底信じられないのです。
 僕にとって、「自分」でない「他者」の存在は既に不可思議です。そして僕は「他者」の存在を信じています。つまり、僕はもう最初の一番大きな問題に対して、根拠のない仮定、いうなれば信仰のようなものを既に持っていることになります。その「他者」が地球人か宇宙人か、どの銀河にいて、どんな形をしているのか、タンパク質でできているかミネラルでできているのか。そんなことはもう些細な問題にも思えます。

 もしもこれを読んでくれている「あなた」が存在しているのであれば、他所の星に「宇宙人」が存在していると考えるのは、僕にとっては随分自然なことのように思えるのです。
 
 

宇宙人の探し方 地球外知的生命探査の科学とロマン (幻冬舎新書)
鳴沢真也
幻冬舎