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書評:『ベーシック・インカム入門』山森亮、その2

ベーシック・インカム入門 (光文社新書)
山森亮
光文社

 すっかりベーシック・インカムのブログになっていますが、前回の記事では書き足りないので、引き続き山森先生の『ベーシック・インカム入門』について書きます。
 ベーシック・インカムとは何か、あるいは関連書籍に関しましては以下の記事に書きました。

 書評:『働かざるもの、飢えるべからず。』小飼弾

 書評:『未来改造のススメ』岡田斗司夫・小飼弾

 やっぱりまだ夢物語にしか聞こえないという方も、あるいは「怠け者の戯言」と思われる方もいらっしゃると思います。
 実際に『ベーシック・インカム入門』の著者である山森先生も

《実は本書を執筆している私自身、1990年代の初頭にベーシック・インカムについて初めて耳にしたとき激しい嫌悪感をおぼえた。》(11ページ)

 と書かれています。
 どのような過程を辿り、山森さんが嫌悪感から本を出版するまでに至ったかということは詳しく書かれていないのですが、ベーシック・インカムというのが単なる社会保障や貧困問題解決の手段ではなくて、労働や生活を根本的に考えるきっかけになり得るという魅力も大きかったようです。

《例えば、私たちが生きている社会は、生きるためには長時間の賃金労働に従事せよと要求する一方で、子供が熱を出したときに保育園に迎えにいこうとする労働者は要らないということがしばしばある。この場合、社会が私たちに要求しているのは、単に生きるためには賃金労働に従事せよ、ということだけではなく、子供が欲しければ二人親過程を築き維持し、フルタイムで働くのはそのうち一人にせよ、ということである。(中略)
 つまり、私たちは家族のあり方、働き方について自由に選択できるのではなく、社会が要請する制約のなかに生きている。
 ベーシック・インカムという考え方は、そうした社会が私たちに要求する事柄に変化をもたらし得る。》(13ページ)

 僕は基本的にはこのような窮屈さがとてもイヤです。
 もっと云えば、実は家族の形態がこんなにカチッとしているのは、これは半分は歴代の為政者達が恣意的に作ってきたからです。
 僕達は「家族」と言われると、ついつい核家族か、せいぜい核家族プラスおじいちゃんおばあちゃんくらいを思い浮かべて終わってしまいます。でも、このような家族観は近代以降の偏見です。
 たとえば、秀吉は農民政策の一環でそれまで普通にあった「複合家族」を解体していきました。複合家族というのは夫婦とその子供がいくつも寄り集まっている家族です。それに血縁だって必ずしもあったわけではありません。家族というのはもっとファジーなものでした。
 僕達は家族という生活基盤の形からして既に社会的な支配/影響下にあります。そのことにはある程度自覚的であった方が良いのではないでしょうか。"普通の"核家族ではない家族形態を異常なものだと思ってしまうような精神性は社会を一層窮屈にします。当然のことですが、誰とどのように住むかというのは自由です。

 単なる社会保障にとどまらず、生活スタイル全体の見直しに繋がるベーシック・インカムですが、山森先生の本には社会保障面でも重要なことが書かれていました。
 それは「現行日本の生活保護制度は機能していない」という事です。

《100世帯中、10世帯が生活保護基準以下の生活をしているが、実際に保護を受けることができているのはたったの2世帯》(32ページ)

 これはザクっとの表現なので、厳密にはもっと悪いです。
 生活保護が必要な世帯のうち、実際に受給している世帯の割合を捕捉率というのですが、捕捉率は1995年で19.7%、2001年で16.3%です。他所の国ではたいてい50%は超えていて、日本は極端に低い。不正受給はメディアで大々的に報道されるがこの低い捕捉率、つまりもらえる筈の人の8割以上がもらえていないという事実はあまり報道されない。

 現行の生活保護には大問題があります。
 それは「この人に上げていいのかどうか」という判断をするのに膨大なコストが掛かっていることと、さらに「本当の本当はそんな判断誰にもできない」ということです。誰かの生活を隅々まで把握して数値化して単位を「円」に変換して査定するなんてことできるわけがないんです。

 日本中の1割の世帯が申請してきて、それを全部査定するのにどれだけ沢山のコストが掛かるのかは想像に難くありません。さらにこれは査定する方だけではなくされる側にも煩雑な手続きというコストを要求します。
 ならばもう全員に一律でお金を給付した方が良いのではないかというのがベーシック・インカムの考え方です。

 最後にキング牧師の言葉を引用して終わります。

《私はいま、最も単純な方法が、最も効果をあげるようになるだろうと確信している。貧困の解決は、いま広く議論されている方法、すなわち保証所得(ベーシック・インカム)という方法で、直接それを廃止することである、と。(中略)
 その保証所得が、たえず進歩的なものとして生かされてくるのを確実にしようと思ったら、次の二つの条件を欠くことはできない。
 第一に、その所得は最低の水準にではなくて、社会の中間の水準にあわせて定めなくてはならない。
 第二に、保証所得は社会の総収入が増大したら、自動的に増加するものでなければならない。
 この提案は、いま普通に使われている意味での「公民権」計画ではない。その「保証所得」計画によれば、全貧困者の三分の二を占めている白人にも、利益を及ぼすのだ。
 黒人と白人の両方が、この変化を遂行するために連合を結んで行動するように希望する。なぜならば、実査問題として、われわれが予期しなければならない猛烈な反対にうちかつためには、この両方の結合した力が必要になるからである。》
 (キング『黒人の進む道 世界は1つの屋根のもとに』、1967年)

ベーシック・インカム入門 (光文社新書)
山森亮
光文社