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書評:『未来改造のススメ』岡田斗司夫・小飼弾

未来改造のススメ 脱「お金」時代の幸福論
岡田斗司夫小飼弾
アスペクト

 時代の変化みたいなものをここ数年ヒシヒシと感じていて、特にKickstarterの存在をはじめて知った時には「ヤラれた!」というような感覚と共に自分の視界が変化しました。
 なんか爽快だった。

 その「変化した視界」の一部は、岡田斗司夫さんの『評価経済社会』という本のお陰で頭の中にスカッと整理されました。岡田さんの名前は「と学会」の頃からずっと知っていて、でも本を読んだのはこの本が最初でした。面白かったので、それから何冊か岡田さんの本を読んでいます。
 今日は小飼弾さんとの対談『未来改造のススメ』を読みました。本当は「ラップがこれからどのように社会を変える可能性を持つか」ということを、前回の続きとしてブログに書くつもりで机に向かったのですが、机に置いてあった『未来改造のススメ』をパラパラと捲ったらとても面白かったので全部読んでしまいました。
 その感想を、ラップのことよりも先に書いてしまおうと思います。

 本の最後の方に、岡田さんのこのような発言があります。

《 僕らは、すでに豊かなんだよ。そこから始めないと、何も変わらない。すでに十分豊かなのに、僕たちは何かに脅えて、お互い奪い合って生きている。 》(p183)

 これは僕がここ数年心の底から思っていてイライラしていることそのものです。
 実はこの『未来改造のススメ』という本は、ほとんどベーシックインカムの本になっています。

 ベーシックインカムというのは「国が、生活できる最低限のお金を国民全員に配る」制度のことです。
 ええ、もう働きたくない人は働きません。
 これは、はじめて聞く人にはびっくりのトンデモなアイデアかもしれません。
 僕がはじめてベーシックインカムのことを聞いたのは3年くらい前だと思います。ベーシックインカムのアイデア自体は古いもので、既に18世紀末には提唱されていました。1970年頃から議論が再燃し、2000年代になってからはベーシックインカムに言及される機会が急激に増加しているようです。

 僕は3年くらい前にベーシックインカムの話を聞いてから、その可能性に対するワクワク感をずっと持っていました。
 ワクワク感を持っていても特に勉強したり活動したりはしていなかったのですが、先日、夕飯を食べていると同居人が「あのさあ、ベーシックインカムってどう思う?明日勉強会あるんだけど」と言ってくれ、それで僕はその友人と一緒に勉強会を覗いてみました。もっともこの時は、遅刻して行った上、あまり話に興味が持てなくてすぐ帰って来まい「やっぱり僕は社会システムにはそんなに興味が無いし、そういうことはそういうことを好きな人達に任せておけばいいな」と思っていました。

 ところが、数日後に読んだ『うつにまつわる24の誤解』( http://diamond.jp/category/s-izumiya )という記事を読んで、やっぱり僕はベーシックインカムのことを考えていたのです。
 しばらくベーシックインカムのことを勉強してみようと今は思っています。
 ただ、この『未来改造のススメ』がベーシックインカムの本として読めるとは思っていませんでした。単に岡田さんと小飼さんの対談本だったから手に取っただけなので、嬉しいサプライズです。

 さて、本書の内容ですが、もちろんベーシックインカムだけではありません。副題が『脱「お金」時代の幸福論』と付いていることからも推測されるように、岡田さんの『評価経済社会』(お金の時代から評価の時代へという内容)と被っている部分もあります。
 『評価経済社会』は岡田さんが1995年に書いた『ぼくたちの洗脳社会』という本の焼き直しです。ほとんど同じ内容で、当時はまだなかったTwitterなどの言葉が入っている程度なのですが、20年近く前に書かれたのにどう読んでも「今」の本です。これには驚くしかありません。こういうことを踏まえてか、『未来改造のススメ』の前書きに小飼さんは「岡田斗司夫は先の見えるオトナ」であるというようなことを書いています。

 そして今「先の見えるオトナ」である岡田さんがベーシックインカムを語っています。
 ベーシックインカムへの伏線は結構前の方にありました。
 41ページに岡田さんのこのような発言があります。
 ちなみに岡田斗司夫さんはエヴァンゲリオンを作ったアニメ会社ガイナックスの設立者です。
 
《今のアニメは完成度が高すぎて、とても自分でやりたいとは思えない》

 これは、昔はプロの作ってるものでも「こんなものなら自分の方がいいのができる」という風に思えたけれど、最近のはもうそんなことない、ということです。それを受けて小飼さんも「自分がウェブの仕事をはじめた頃は簡単なことを知っていれば引っ張りだこだったが、今は1人のエンジニアに要求されることがとても多い」と言っています。
 これだけを聞くと、まるで年寄りの話みたいに聞こえてしまいます。なぜなら、新しい未成熟の分野は日々新しく生まれているからです。

 ただ、話はここからで、その新しい分野を切り開いているのはもはや超絶な趣味人であってビジネスの人達ではありません。
 大袈裟に極端に書いてしまいましたが、そういうことです。

 68ページから引用します。

《 岡田:僕はそろそろ「本当は仕事なんて必要ない」と言い始めてもいいと思っているんですよ。働く必要がないのに働こうとしているから不幸なのかもしれない。

  小飼:人にカネを出して買ってもらえるレベルが格段に上がっていますね。コンテンツが無料になっているという話にもつながってくるんだけど、昔ならしょぼいものでもカネを払ってもらえたのに、今はすごい出来のものが無料で提供されています。働く人全員がそのレベルに達するのは無理でしょう   》

 そして「人にカネを出して買ってもらえる」ものを作るのに大勢の人間が必要だった時代も終わりに近づいています。デジタルファブリケーションが普及すれば、1人家電メーカーみたいな人はどんどん増えるはずです。

 昔、現代美術家椿昇さんがレクチャーであるビデオを見せていらっしゃいました。
 そのビデオはドキュメンタリーで、名前を忘れてしまったけれど、どこだかの島の人々の生活を写したものです。その島には産業が1つしかありません。それは「ロープ作り」です。そして、ロープを作っているのはたった1人、「ロープ作りの天才青年」です。他の島民はどうしているかというと、何もしていません。彼が一生懸命にロープを作っているのを周りでぼーっと眺めたりしています。島民は彼が1人で養っているわけです。「こういうのも、まあアリなんですね」
 僕も「まあ、アリだな」と思ったのだけど、あとで友達に話すと「それはお前ら甘っちょろい怠け者の考えだ、一生懸命働いてみろバカ」と怒られました。
 でも、もしも僕がロープ作りの天才で、それでロープ作りが楽しかったとしたら、そしたら僕が1人でロープを作って、あとのみんながロープの売上で楽しく暮らしてくれて構わないなと、やっぱり思います。

 この本にも弁護してもらうと、96ページにこのような話が出ています。

《岡田:個人レベルで見たら、生活が苦しいということはあると思う。ただ、もう「個人」という考え方は無理。あれは二十世紀の幻想と言っていいでしょう。一族郎党と考えたら、日本人は豊かです。けれど、二十世紀後半から二十一世紀初頭にかけて、僕らはすごく「しんどく」なってきた。一族全体でなら豊かだったはずなのに、それを核家族にして分け、さらに1人1人に部屋を割り当てるなんて無茶をしてしまったから。個人で考えるのではなく、一族20人のうち、3人が働いていれば上等でいいんじゃない?

  小飼:すでに日本は10人に1人が働くくらいで、モノの生産やサービスの提供を含めて、社会を回せるようになっている。何もしなくていいと言われても、10人に1人くらいはじっとしていられなくて、バタバタと手足を動かしたくなってしまうものなんですよ。そういう人が、自分に向いたことを見つけると、1000人を食わせられるモノをポンと作ったりするのが今の時代です。

  岡田:アジアでは、1人の働き手に、20人くらいの家族がくっついていたりするでしょう。あれって、当たり前ですよ。一時期日本は進むべき方向を見失って西洋から学んだけど、もう一度あそこに戻るのがいい。ただし昔を違って、一族は血縁とは限らない。縁もゆかりもない他人同士、「拡張型家族」として20人くらいがお互いに支えあって生きていくのがいいんじゃないかな。  》

 流行してきたシェアハウスなどに見られるように、共に暮らす若者は増加しています。実際に僕も今5人で暮らしていて、貧乏な僕がもしも一文無しになったら少しくらい食べ物を別けてもらったりはできると思います。
 いやいや、それは人に頼ってたかってるだけじゃないか、と言われるかもしれません。でも、基本的に人は頼り合いうもので、

《岡田:この「たかる相手を見つける旅」のことを、就職や結婚と言ってきたんだ。就職というのは能力のない奴が大企業に「安定した生活をさせてください。そのうちお役に立ちますから」と頼んで、月々のお小遣いをもらっているのと同じことだからね。 》(P、174)

 ベーシックインカムについては書きたいことがたくさんあって、段々と長くなってきたのでそろそろ終わりにします。
 もう政治のような富の再分配とか、立法みたいなシステム最適化問題は全部「コンピュータ」に任せて、最適化された世界で、貧困のない世界で、嫌々働かなくていい世界で、好きなことならいくらでも働ける世界で、そういう世界で生きたいと、僕だけではなくて多くの人達が思っているのではないかと思います。
 その為のテクノロジーと知恵は既に僕達の手の中にあります。

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目次

はじめに  小飼弾

1. カネ持ち、モノ持ちは、もはやダサイ!

今本当に必要なのは、モノのダイエット
廃校とブックオフを買ってみる?
もはや、カネ持ちは格好悪い!
実は、アメリカは発展途上国だった

2. 知恵やコンテンツはそもそもフリーである

未成熟な業界には隙間がたくさんある
コンテンツにカネを払う奴は負け犬なのか?
日本人は世界一フィギュアが嫌いな民族
コンテンツはタダだということがばれてしまった!

3. 仕事の報酬は、カネから体験に変わる

命と引き換えにしても欲しいモノはあるか?
自分が自分の客になるかを考えてみよう
うまくやる奴とうまくいかない奴の格差は大きい
普通のモノは誰にも買ってもらえない
まず、自分の補助線を世界に書き込んでみる
教育とはそもそも何か

4. 会社、学校、家族のいいとこ取りした新しい組織

岡田斗司夫は、ビジネスが不得意である
暗黙知を伝えるための弟子方式
自分ではなく弟子たちにやらせないとダメ
学んだ弟子が卒業する瞬間
社員が社長に給料を払う

5. 個人という幻想が終わり、他人同士が家族になる

「個人」という幻想はすでに終わっている
働くことはパカのための免罪符になりつつある
「ばあや」のススメ
非モテはこれで解決できる!
非モテのためのマーケティング
青年よ、もっと無意味に悩め

6. 世界支配は、機械政府に任せてしまえ!

機械政府の可能性を探る

7. 働かなくても飢え死にしない時代ヘ

日本人全員を年金生活者にしてしまえ!
真の成金は、子どもにカネを残したりしない
人生は辛さの好みがそれぞれ異なるカレー

8. 沖縄と北海道は独立国に、日本は「合県国」に

沖縄と北海道を独立国にしよう
地方分権ではなく、いっそ連邦制へ
僕たちは何に脅えてきたのか?

9. 「僕らはすでに豊かだ」からスタートしよう

カネ持ちに上手にたかろう
みんなで力を合わせて無意味なモノを作る
たかる相手を見つける旅に出よう
生きる力とは、たかる相手を見つける能カ
ベーシック・インカムは苦痛を減らす
僕らはすでに豊かだ
仕事は「数寄者」の権利になる
もう大学なんていらない!
自分ができることを明日からやればいい

おわりに  岡田斗司夫
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未来改造のススメ 脱「お金」時代の幸福論
岡田斗司夫小飼弾
アスペクト