書評『フレデリック―ちょっとかわったねずみのはなし』:あるいは芸術について

 (あるいは芸術に絶望した芸術家のために)

 僕はもう32歳だし、それに男だし、世の多くの成人男性がそうであるように「ぬいぐるみ」には特に興味がありません。小さい時にはいつも持ち歩いていたぬいぐるみもありました。今でも見掛けて「かわいいな」とか「よくできてるな」とかチラリと思うことはありますが、まあそれだけのことです。
 ところが、先日街角で次のようなぬいぐるみを見掛けて、なんだか若干グッと来てしまいました。「プレゼント」か「何かの材料にする」でもない限り、ぬいぐるみを買うという選択肢はもうないので、流石に買うことはありませんでしたが、ぬいぐるみを見て「欲しい」と思ったのはとてもとても久しぶりのことです。

フレデリック ぬいぐるみ(M)
リエーター情報なし
ラムフロム


 このぬいぐるみのキャラクターを、僕は全く知らないわけではなく、頭の片隅に「どこかで見たことがある」という程度の認識は持っていました。どこかで見たことはあるけれど一体なんだか分からない、というのは一番気になることの一つなので、後で検索してみたところ「フレデリック―ちょっとかわったのねずみのはなし」という絵本のキャラクターでした。
 作者は「スイミー」も書いたレオ・レオニ
 日本語への翻訳は、日本唯一のプロ詩人と言っても過言ではない谷川俊太郎さんです。

 フレデリックはぬいぐるみを見てもわかるように、見た目はどちらかというと「ゆるキャラ」なので、絵本もそういった呑気な話なのだろうと思っていたのですが、全然違いました。

 話は、フレデリックと仲間のネズミたちの話です。
 みんなが冬に備えて一生懸命働くのに、フレデリックは働きません。
 なんか、ずっと寝てるみたいにボーっとしてるわけです。
 そして、「どうして君は働かないのだい?」とか「寝てるの?」とか言ってくる仲間に向かって、

 「違うよ。おひさまを集めてるんだ」とか、
 「色を集めてるんだ」とか、
 「言葉を集めてるんだ」

 などの、良く分からない言葉を返すのです。

 そして、冬がやってきます。
 最初のうち、蓄えた食べ物があったので、ねずみ達は楽しく過ごすのですが、そのうちに蓄えが尽きてきます。もちろん、なんにも働いてないフレデリックもむしゃむしゃと蓄えを食べます。
 有りがちな感じに、このまま食料がなくなった頃に、フレディックが大活躍してみんなの危機を救うのだろうと思っていたら、なんというか、そうも単純ではありませんでした。
 食べ物もなくなりくさったみんなは「そういやなんか訳わからないこと言ってたけど、あれってどうなってるの?」とフレディックに聞きます。

 フレディック応えて曰く、

 「目をつむってごらん」

 えっ。。。

 いや、わかるんだけど。
 フレディックはもうなんかオーラも違うんです。
 仲間のねずみ達はみんないいやつですっかり騙されるというか。
 もしも宜しければ次の動画を見てみてください。とても面白いです。




 物語というのは、別に意見や教訓を引き出すものではありません。
 作者はこの物語でどういうことを言いたいのか、なんて本当にどうでもいいことです。
 ただ僕はこの話がとても好きで、なぜたったの500円なのか、なぜこんなに安いのか全く謎な英語版の本を買いました。

フレデリック―ちょっとかわったのねずみのはなし
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好学社


Frederick
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Dragonfly Books