公的な青少年の支援という枠組み

 青少年の活動を支援する、というような目的で存在している、ある公共施設で働く友人からメールが届いた。

 そこには、大学生の青年が施設にやって来て署名を集めていたら「政治活動と宗教活動はここではできない」と言われてやめさせられたのだが、一生懸命な青年の活動をやめさせるのは変ではないだろうか、ここは活動を支援してあげる施設なのに。がんばってやってるんだから何でも支援してあげればいいのではないか。ということが書かれていた。

 その人は、他の職員が全員「政治と宗教はダメ」と疑うことなく普通に思っているようだったので、話す人がいなくて、僕なら分かってくれるのではないかと思った、とメールを送ってくれた。

 友人の職場では、具体的には青少年達がやってきてバスケットボールの練習をしたりダンスの練習をしたりフリーマーケットをしたりするらしい。そういうことが税金を使った公共の施設が行う公共性の高い青少年の活動の支援らしい。
 公共とは一体なんだろう。政治とは本来社会全体のことを考えるもので極めて公共性の高いものだと僕は思うのだけど違うのだろうか。
 少なくとも極めて個人的と言えるスポーツの練習やダンスの練習、と、政治に関わる署名運動のどちらがより高い「公共性」を持っているかは火を見るよりも明らかだと思う。
 しかし、そこで働く職員達はそういうことを考えないようだ。「政治と宗教はここではダメ」でその先は理由も何もない。
 「決まりだからダメ」で終わりなのだろう。思考の枠組みが。



 規則というのは最初から自然に存在しているものではなく、過去に誰かが何かの為に決めたものだが、誰がいつどういう理由で決めたのか、それが今も妥当なものなのかどうか、そういうことには職員の人は興味はなくて、単にルールとか「そういう空気」がそこにあるからそれに従って働いている。
 そうすると何も考えなくて良いので仕事の知的付加が下がりストレスが減る。バスケットボールをしに来た子供達に「本当にバスケが好きだなぁ、ちゃんと勉強もしてよー」とか軽口を叩いて、わたしはスポーツする子供と触れ合っていい仕事をしているなぁ、とかだけ思っていればいい。
 そういうのはとても楽だ。
 スポーツとか子供との触れ合いとか、そういった社会的に無条件に「良い」と見なされているものにだけ関わって何も考えないのはとても楽なことだ。そして多分楽しい人にはそれが楽しいのだろうと思う。だからそれはそれでいい。
 でも、そこへ政治のことを考えているというような青年がやってきたとき、その人たちには対応できないしバックアップすることなんて全然できないのだろう。「あっ、なんか面倒な人が来た、政治と宗教はダメって決まってるから帰ってもらおう」
 
 どうしてスポーツやカルチャーは良くて、政治と宗教はダメなのだろう。
 それは政治と宗教には社会を本当に動かす力があるからだ。実は僕たちは政治と宗教の中で生活している。それは空気のように、普段は存在を意識できないくらいに普遍的に僕たちを覆っている。それはあまりに長い歴史と強い力を持つので考えるのが面倒で、実は一部の人々が政治と宗教を支配していて自分たちは年貢を取り立てられる農民のように暮らしているのだということを僕たちは直視しないようにしている。ある程度の自由は身の回りにあるし、食うに困らないし、結婚もしたし、子供もいるし、海外旅行もしているし、結構楽しいし、だから実は何かの支配下で生きているのだとしても、まあいいや、見ないことにしよう、社会ってみんなで生きていくのだからそういう風に我慢するのが当たり前じゃん、とか思っている。生きるというのはそういう風に何かの支配下で耐えることで、その”お陰で”、耐えている”お陰で”すてきな家庭とか車とかを持てるのだ、と思っている。
 もしくは本当に社会のことが見えていない。信じがたいことだけど、まるで磯野家の人々のように、自分の日常生活以上のことが本当に見えない人たちが存在している。

 政治を考える青年は、もしかしたらただの目立ちたがりかもしれないが、少なくとも、何かが見えてはいる。そういう人間には活動支援施設は支援をしてくれない。
 支援施設はスポーツとかカルチャー教室のような社会的には無力で安全なものにしか力を貸してくれない。
 体制が体制を維持するためにはそれは当然のことかもしれない。
 ある一定の広さを与えて、その中でだけ自由に考えさせる、本当は自由じゃないということは悟られないように、囲いが見えないように。
 囲いを指摘する者があれば、なるべく早く排除する。みんなが囲いの存在に気づくと一揆のようなことが起きて制度が崩壊して支配者は地面に引きずりおろされるからだ。

 公共施設が支援している青年活動には全部そういう側面がある、ということはそういうところのお世話になる人は頭の片隅に置いておいた方がいい。

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