the big bang theory; the dumpling paradox, part 1.

 僕の大好きな海外ドラマ"The Big Bang Theory"をいくつか書き起こしてみることにしました。ただ台詞を書き起こしただけではシナリオみたいで読み難いし、かと言ってノベライズすると一から小説を書くのと同じくらいの労力がいるので、シナリオに少し肉付けした程度になっています。
 それなりに忠実に訳したつもりですが、僕はそれほど英語が堪能ではないので、分からない所、あるいは文化的に日本人には理解できないところは端折ったり好きなように書き換えたりしています。
 最初の方の回は好きではないので飛ばしました。

・主要な登場人物(多分みんな二十代半ばです)

 レナード : 実験物理学者。オタクだけど仲間うちでは一番まとも。シェルダンと二人で暮らしている。向かいに引っ越してきたペニーに恋心を抱いている。

 シェルダン : 理論物理学者。IQ187の天才で、11歳で大学に入学している。オタク。屁理屈ばかりこねる。

 ペニー : レナード達の部屋の向かいに引っ越してきた今風の魅力的な女の子。

 ハワード : 工学者。オタク。ユダヤ人。数ヶ国語を操る、と少なくとも自分では思っている。無類の女好き。母親と二人で暮らしている。

 ラジェシュ : 理論物理学者。インド人。オタク。女の子が苦手で話すことができない。ペニーがいるときに言いたいことがあると誰かの耳元で囁いて代わりに言ってもらう。

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「ギョーザ矛盾問題を解け!!!(その1)」

「この新しいケータイすごいんだぜ」
 ハワードはポケットから取り出した携帯電話に向かって言った。
「レナード・ホフステダー、に電話を掛ける」
 すると携帯電話は例のゆっくりとした合成音声で返事をした。
「ヘレン・ボクスレイトナー、に電話、でよろしいでしょうか?」
「違う。レナード・ホフステダー」
「テンプル・ベス・セダー、に電話、でよろしいでしょうか?」
「違うってば。もー」
 見かねてレナードが、ちょっと僕にやらしてみてよ、とハワードの携帯を手に取り、そしてふざけて「オバカ・バカバーカ。ふふっ」と言った。
「ラジェシュ・クータパリ、に電話、ですね」
 隣にいたラジェシュが、えっ、という表情を浮かべた瞬間、ラジェシュの携帯から呼び出し音が鳴った。
「へー、これは優れた技術だ。全くすごい。バカって言ったらインド人の僕に掛かるわけだね。この携帯作ってる会社は人種差別するってわけだ」

「あのさ、君たちはその携帯電話で遊ぶためにここへ来たわけ? テレビゲームしに来たんでしょ。早く”ヘイロー”やろうよ。8時からしようって言ってたのに、もう8時6分じゃないか」
 ソファーに座ったシェルダンはそう言って手に持ったゲームのコントローラーをヒラヒラさせた。
「オッケー、ごめんごめん、やろうやろう」
 レナードがシェルダンに返事をして、全員がソファーに座りコントローラーを手に取る。”ヘイロー”というのは4人が今夢中になっているバトル・シミュレーションゲームで、今は少し携帯で遊んでいたけれど、もちろんみんなこのゲームを早くやりたくてうずうずしていた。
「ゲームを始める前に、この6分のロスを、ゲームの時間、トイレ休憩、ピザ休憩、のどこから捻出するか決めないと」
 シェルダンがまた細かいことを言う。
「ゲーム、トイレ、ピザ、からそれぞれ2分2分2分で」
 ラジェシュがさらりと素早く決めて、もしもピザがアンチョビのピザだったら、とハワードがなにやら言いかけた時、誰かがドアをノックした。すでに時間が6分遅れていてイライラしているシェルダンは「まったく誰だよ、こんな時に」と毒づいてドアの方を見る。
 レナードがドアを開けると、入ってきたのはやはり向かいの部屋のペニーだった。
「ちょっと困ったことになってて。しばらくこの部屋に匿ってくれない?」
「もちろんいいよ。でもどうしたのさ?」
 レナードが聞いた。
ネブラスカにいたときの知ってる女の子が、クリスティって名前なんだけど、電話してきたの。それで”カリフォルニアはどう?”って聞くから、”すごくいいわよー”って返事したわけ。分かるでしょ、元いた所から別の場所に移ったら、新しい場所が本当に素敵かどうかに関係なくみんなそう言うわよね。そしたら彼女うちに泊めてほしいって」

 またまたソファーからシェルダンが「もう8時8分だけど」とコントローラーをヒラヒラさせて、レナードはうるさいと軽くあしらった。

「そしてまあ今日うちに来たわけ。もう喋りに喋るわけよ。オマハで彼女がエッチした男たちについて。オマハにいる男全員と寝たんじゃないかしらってくらい。それで見たこともないようなヤらしい下着の数々を洗面台で洗ってるの」

「下着1枚づつ洗ってるの、それとも一気に全部洗ってるの、どっち!? 一気に全部だったらまるでエロスのブイヤベースだ」
 ハワードがソファーから身を乗り出して聞いたのでペニーは冷たい視線を投げかけた。
「この人は本当に頭がどうかしてるわね」
 レナードは「よく知ってるよ」と答えてハワードをたしなめ、それからペニーに言った。
「でもさ、そのクリスティって子のことが嫌いなら泊めなけりゃいいんじゃないの?」
「そういうわけにもいかないわよ。彼女は昔私の兄と付き合ってて、それと同時に私の従兄弟と結婚してたんだから、家族みたいなものなの」

 そこへまたシェルダンがコントローラーを持ったまま「うるさく言うようで悪いけれど、ヘイローしないの? オマハの娼婦の話の方が楽しいってわけだね」と言った。
「別に娼婦ってわけではないと思うよ」
 レナードはそう言ったけれど、ペニーは娼婦という表現に賛成した。
「いいえ、彼女はまさに娼婦よ、いつも男をとっかえひっかえしてるの、昔一度こんなこともあったのよ、っていうかハワードどこ行ったの」
 振り返るとソファーにハワードの姿はなく、代わりに開いたドアの向こう側から声が聞こえてきた。
「ボンジュール、マドモアゼル。この辺りに引っ越してきたばかりらしいですね」

「これはまたややこしいことになった」とシェルダンが言った。

 ペニー、レナード、シェルダン、ラジェシュが廊下に出てみると、すでにハワードはペニーの部屋の中だった。ドアは閉まっていて内側からはスローな音楽が聞こえている。
「信じられない。クリスティ、私の部屋に勝手にハワードを入れた。ほんとに信じらんない」
「僕はわざわざお金を払って星占いしてもらう人々がいることの方が信じられないけれどね。そしてもっと信じられないのはもう8時13分なのにまだ僕たちがヘイローを始めていないってことだ」
 シェルダンは腕時計を見てイライラしながら言った。
「わかったわかった、じゃあもうハワードとクリスティは放っておいてヘイロー始めよう」レナードは部屋の中に戻りながら言った。「でもハワードがいなくなっちゃったから2対2の対戦はできないね。ハワードが戻ってくるまでは1対1でやろう」
「1対1なんてイヤだよ。2対2のチームプレイがしたいんだ。1対1なんて。1対1なんて」シェルダンは、1対1なんて、とどうしてか2回つぶやいた。
「しかたないだろ3人しかいないんだから。じゃあラジェシュを半分にぶった切って2人にするか?」
「ほー、僕を半分にぶった切るだって、いいさ、やれよ。哀れな外国人にそんなことしたらインドから10億人が押し寄せてお前なんてボコボコにされるから」
「あのさ、一人足りないんだったら私がやってあげてもいいわよ」
 ペニーが見かねて申し出てレナードが「本当に?それはいいアイデアだ」と言ったが、またしてもシェルダンはノーと言った。
「車輪の発明はいいアイデアだった。相対性理論もいいアイデアだった。でもこれは違う。ちょっとした思いつきっていうか、むしろくだらないアイデアだよ」
「なんでよ。私がやってあげるって言ってるのに」
「なんでよ、だって。おバカなペニーちゃんペニーちゃんペニーちゃん」
「なになになに、なんだってのよ」
「これはとても複雑で難しいゲームで高い学習能力が要求される。多種多様な武器、乗り物、作戦、そういうのを分かってないとできないし、それだけじゃなくて入り組んだ物語が背景にあるんだよ。君が急にやってできるわけ・・・」
 ペニーがシェルダンを無視してコントローラーを掴み適当にボタンを押してみると画面の中で弾丸が発射されて誰かの頭が吹き飛んだ。
「わー、面白いじゃないの! 吹き飛んだの誰の頭?」
「僕のだ」
 シェルダンがペニーをにらみ付けた。
「オッケー、だいたい分かったわ。始めましょうよ」
 レナードが「こうすれば2対2でできるんだからさ」とシェルダンを促した。
「けど、誰が初心者のヘタっぴペニーと組むんだよ」
 シェルダンは喋り続け、ペニーは勝手にゲームをはじめた。「ははー、おもしろい、またシェルダンの頭吹っ飛ばしちゃった」
「ちょっと待てペニー、そういうのはスポーツマンシップに反するんだぞ。反撃するチャンスの全くない相手に攻撃をするなんて一体君は・・・クソッ」
 ペニーはそんなのお構いなしに攻撃を続け、シェルダンは慌ててコントローラーを握りゲームに参加した。
 
「これでも食らえ」とか「死んでしまえ」とか「どうだ」とか叫び声と笑い声を上げながらゲームは長時間続き、そしてレナードとペニーのチームはシェルダンとラジェシュのチームをこてんぱんにやっつけた。
「こんなのインチキだ」負けたシェルダンは立ち上がって言った。「どうやってるのか知らないけれど彼女はインチキしてるに違いない。魅力的でモテモテでゲームまで上手いなんて人間はこの世界にいないんだ」
 立ち去ろうとするシェルダンに向かってペニーが言った。
「シェルダンちょっと待って、忘れ物」
「なに?」
「プラズマ・グレネード砲よ!」
 ペニーは画面の中にまだ残っているシェルダンのキャラクターを木っ端微塵に破壊して大笑いした。「今に見てろ」シェルダンは捨て台詞を残して彼の寝室へと引き上げていった。
「なんて不機嫌な負けっぷりかしら、たかだかゲームで」
「公平の為に言っておくと、彼は勝ったときも全然喜ばないよ」とレナードは言って笑った。
「あー、面白かった。じゃあ、私そろそろ部屋に戻るわね」
 立ち上がりドアから出て行くペニーをレナードは見送る。
「君はヘイロー上手だし、今日は楽しんでくれたみたいだし、僕らいいチームだったし、これからも時々さ、一緒にヘイローしないかな?良かったら」
「あー、うん、それより私はリアルな生活を楽しむことにするわ、ごめんなさい。ラジェシュ、いつも通りあなたとの会話楽しかったわ。おやすみなさい」
 ペニーが部屋を出て行ってドアを閉めると、彼女は何を言ってるんだ、僕は彼女と一言も喋ってないのに、とラジェシュが肩を竦めた。
「彼女は暗号製造機みたいな謎の塊なんだよ。ラジェシュ」
(その2へ続く)
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