東京日記3

 11日は夜早めに京都へ戻るので、それほど時間もなく、一人でさっと気になることことを済ませてしまう日。一人観光は苦手だけど、当初はこの最終日半日くらいだけが一人観光の予定で、それくらいなら許容範囲だった。

 渋谷駅で岡本太郎明日の神話」を見る。

 次いで、地下鉄とゆりかもめを乗り継ぎ、日本科学未来館へ向かう。
 それまでごちゃごちゃした街だとしか思っていなかったけれど、ゆりかもめからの景色があまりに未来的で度肝を抜かれた。はじめて東京の凄みを見た気がする。ビッグサイトの巨大さだとか、空と飛行機と、汚れきっているけれど海があり、高層ビルが並び、風力発電の風車があり、昔の科学雑誌にあった未来予測イラストみたいだった。

 テレコムセンターゆりかもめを降りると、目的の科学未来館の前に産総研が目に飛び込んで来て色々と複雑な気持ちになる。
 産総研

 科学未来館へは2時に着いた。運の良いことに2時からはアシモのショーみたいなのがあったので、僕はそのまま急いでアシモを見に行った。
 それから、これも運の良いことに昔ネットでお世話になった尊敬するエンジニアの方とお会いすることができた。「あー、あの時の!」と。まさかこんな形で会うことになるとは、あの時想像もしなかった。

 日本科学未来館は懐かしい雰囲気だった。
 子供の頃に見た科学館のことを思い出す。
 展示されている内容は僕が子供の時から進化しているけれど、そんなには変わっていないような気もした。
 今はここで働いていらっしゃる元エンジニアの方が「いやー、ここローテクですよ。予算もないし」と言っていらっしゃったのが10分程見ていると分かってきた。展示されていることも大体は知っていることだし、そんなに時間を掛けては見なかった。でも子供の時に来たら大はしゃぎだっただろうな。

 特別展はドラえもんの道具に現代科学がどこまで近づいたかというもの。ドラえもんで夏休みの子供も引っ張れると思うし良い企画だと思う。
 僕は展示されている物にではなく、壁に大きく描かれていたドラえもんのマンガのコマに感激してしまってちょっと泣きそうになった。
 僕はドラえもんにものすごく影響を受けている。ドラえもんは地球の科学の象徴だった。ドラえもんの映画はいつも「地球の科学vs何々」という視点で見ていた。
 あの優しい手触りは何だろう。奇跡みたいなマンガ。

 未来館の後、表参道へ。
 そういえば表参道ヒルズには実は前日にも訪れているのだけど(最初に書いたように掻い摘み日記なのです)、この日も少しだけ入った。

 けれど、表参道の主目的は岡本太郎記念館。いつか来ようと思っていたので、今回の東京滞在で訪ねることにしました。東京日記1の冒頭はこの岡本太郎記念館の中にある彼のアトリエに入ったときのことです。
 かつて、ここで彼は絵を描いていた。

 僕は自分がいつどこでどのようにして岡本太郎の名を知ったのか思い出すことができない。幼稚園の年小に当たる時期、僕は大阪の茨木に1年程住んでいたので、太陽の塔はきっと目にしていたことだろう。画家志望からデザイナーに転向した父は、まだ幼い僕に太陽の塔をどういう人が作ったのか説明してくれたかもしれない。そういうことがあったとしても何も覚えてはいないけれど。

 覚えているのは初めて「今日の芸術」を読んだ時の衝撃だ。僕はもう大学生になっていたかもしれない。それまで「芸術は爆発だ」に代表される奇抜さしか知らなかったが、今日の芸術の中では岡本太郎の芸術観が理路整然と説かれていた。

 それもその筈、彼は当時のの日本において、かなり数少ない本物のインテリだった。パリに長く暮らし大学でモースに師事して、抽象芸術運動に参加してバタイユカンディンスキーなんかと議論するような暮らしから日本へ帰って来た男なのだ。輸入された書物を読んでいただけのインテリとは話が違う。

 昔、岡本太郎三島由紀夫、あと誰か忘れたけれど何人かの座談会記録を読んだことがる。太郎と三島とのやりとりは実に印象的だった。格が違う。今で言うと、ツイッターでの堀江貴文と一般人のやりとりくらいに格が違う。
Aさん:「堀江さんはどうしてそんなに失敗を恐れないで色々なことにチャンレンジできるのですか?」
ホリエモン:「失敗したらなんか困んの」
 みたいな。

 正直な話、僕は岡本太郎の絵は好きでないし、好き嫌い以前にもう古いと思う。立体は結構好きだけど、でも立体ももう古い。
 古いとか新しいとか、そんなものだけで芸術は評価できない、という反論もあるかと思うけれど、芸術は古い新しいの問題です。古い作品には芸術としての価値はない、それはもうただの「芸術の歴史」の資料にすぎない。

 でも岡本太郎の書いた本はとても好きです。本を読むと「ただの変な芸術おじさん」というイメージは吹き飛ぶと思う。
 その点はムツゴロウさんに似ているかもしれない。ムツゴロウさんも「ただの変な動物おじさん」だと思われているけれど、彼の本を読むとそんなイメージはぶっ飛んでしまうはずだ。生き方がもの凄いです。

 岡本太郎記念館を出たあと、簡単な待ち合わせをして、それから東京駅で新幹線に乗り京都へ戻った。
 京都駅では、牛久大仏より11メートルだけ背の高い京都タワーが夜空を背景に白く光っていた。

今日の芸術―時代を創造するものは誰か (光文社知恵の森文庫)
リエーター情報なし
光文社


自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間”を捨てられるか (青春文庫)
リエーター情報なし
青春出版社