bacteria..

 お酒を飲むとき、軽い躊躇いがいつも頭を過ぎる。二日酔いを心配するのでも、自分の肝臓を心配するのでもなく、気に掛るのは細菌達のことだ。僕の消化管に住む百数十兆の細菌達。彼らのうちどれくらいがアルコールで死んでしまったり弱ったりするのだろうか。

 僕達の体には沢山の常在菌が住んでいる。腸内の最近は百数十兆個と言われていて、重さに換算しても1キロとかそれくらいの存在感がある量だ。僕は体重が50キロだけど、そのうちの1キロは菌の重さだということになる。もちろんことはそんなに単純ではなくて、49キロが僕で1キロが細菌だとは言い切れない。ミクロな視点で見れば、僕の腸壁と細菌と消化物間の分子のやりとりは複雑で、ここまでが腸、ここからは細菌だという風には明確な線を引くことはできない。この世界では本当はいつも境界は曖昧だ。

 腸の中の細菌だけでなく、皮膚にも常在菌はいるわけだけど、昔その数が1平方センチ当たり100万個だと聞いて、今も調べてみたらいくつかのサイトにはそう書いてあった。
 果たして本当なんだろうか?

 昔、話を聞いたときには「小さいから見えないけれど、でも実は皮膚には1平方センチ当たり100万匹も菌が居る。すごい」みたいな感じで特に疑問を感じなかったけれど、いくら細菌が小さいといっても100万匹もそんな狭い範囲にいたらコロニーみたいな感じで肉眼にも写るのではないかと思ったのです。

 1平方センチあたり100万だから、1平方ミリ当たり1万個。
 細菌の標準的なサイズがゼロ点数ミクロン(10のマイナス7乗)のオーダーだから1個当たりの面積は近似的に10のマイナス14乗。これが1万個なので大体10のマイナス10乗。つまり1平方ミリ(10のマイナス6乗)中で細菌の占める面積は0.0001パーセントくらいですね。それが単位面積中で平均的に分布しているならやっぱり肉眼では見えないか。皮膚の色味にも影響はないのだろうか。

 成人の平均的な皮膚の面積は1.6平方メートルだということだから、1平方センチ当たりに100万匹も細菌がいるのであれば全身で1.6億の細菌が居ることになる。1.6億もの目に見えない生き物にみんなが覆われて生きているなんて実にへんてこなことだ。