yoke.

 恥ずかしいことを告白しようと思う。
 僕はこのとき意気地無しで無能だった。昔話ではありません。つい、先週の金曜のことです。

 金曜日の夜、僕は携帯電話で話をしながら自転車に乗っていた。近所のある交差点に警官が6人くらい立っていて、事件でもあったのかと思いながら通り掛ると、中年の警官が「携帯切りなさい」というようなことを言った。僕はそういえばそんな決まりもできていたような気がするなと思い、一応「はーい」と言ってそのまま通り過ぎた。すると10メートルも進んだ頃に彼は若い警官一人を伴って走って追いかけてきて、僕は強制的に止められ、そしてお決まりのやり取りが始まった。そうか、事件ではなくて、また自転車の取り締まりをしていたんだこの人たちは。夜中に6人で道端に立って。

 若い方の警官が自転車から降りてもらえるかと比較的丁寧に言い。僕はこれはスタンドの無い自転車だから自立しないし面倒だし嫌ですと比較的丁寧に断った。そして彼が現れた。

 彼は喚きながら現れ、正直な話、僕はまた面倒に巻き込まれたと思った。様子が尋常とは程遠く、僕は最初彼が一体何を言っているのか分からなかった。彼は中年の方の警官に昨日僕と同じように捕まえられたようだった。結構な暴言で中年の方の警官にたて突き。若い方の警官は僕に「あの人は関係ないんで、お時間とらせてすみません、これに名前と住所書いてもらえばそれで結構ですんで、すみません。これ書いたからって罰せられるとかそういうことは無いんで、書いてもらって行ってもらって結構です、自転車のりながら携帯は禁止されているんで重点的に今取り締まっていて」と言った。
 男は僕の方を向いて「にいちゃんそんなん書かんでいいで、もう行っていいで」と言った。まったく表現できていないけれど、彼はそのとき本当に危険な人間に見えたので、僕は言葉を返さなかった。すっかり剣幕に飲まれていた。
 彼の態度は異常で、使う言葉も酷かった。それでもスタンスとしては多分僕は彼に近いんじゃないかとは思った。だけど、僕は警官が差し出した紙にサインした。反抗して面倒なことになるのが本当に面倒だったし、どうでもいいからさっさと終わらせたかった。この紙はこの後、せいぜい何人が書いたか数を数えられて、その後適当に数年保管され、誰に読まれることもなく捨てられるのだから、名前を書いて帰ればいいと思った。若い警官だってこんな紙切れにサインをさせることに意味はないと分かっていたと思う。僕は判別不可能なくらいの汚い字でそれを書いた。

 申し訳ないけれど、僕もこんな取り締まりには不服だし、ちょっとサインなんてできない、って言ったらどうなっていたんだろうか。そうすべきだったのかもしれない。

 「いつから携帯が駄目なのか」と聞くと、若い警官は去年の6月だかなんだかと答え、ヘッドホンも禁止なんです、法律じゃなく京都の条例です、と教えてくれた。僕もこんなことするために警察に入ったんじゃないんだけれど、という表情だった。彼は僕より5歳は若いに違いない。

 一旦僕はその場を後にした。彼は益々ヒートアップして、「助けてー、警察にいじめられてるー」等と叫び、警官は6人がみんなわらわらと寄ってきて、ついでに近所の家から野次馬も出てきた。その交差点には交番もあって、彼はその交番の方へ連れて行かれた。僕は後悔を始めていた。彼とちゃんとした会話を交わしてみるべきだったのではないか。でも僕が今まで見た中で最も危ない状態の人間にも見えたので、遠巻きにして暫く迷っていた。野次馬や通行人はみんな彼のことを嘲笑って面白がっていた。僕は薄ら笑いの野次馬に彼が本当にそんなにおかしいかと問い詰めて、それから彼と同じように警官を罵倒したかったのだと思う。自転車の取り締まりだけ熱心で、本当の事件が起きた時には何にもしてくれない彼らに。でもそうはしなかった。臆病で、面倒は嫌だと思ったから。それはミクロでは合理的だけどマクロでは合理的でない判断だったと思う。

 その後、彼はパトカーに乗せられてどこかへ連れて行かれた。
 僕はかろうじて彼に連絡をとるラインを確保し、そして自己嫌悪でうなだれながら帰った。


<暴力容疑>娘の中学に乱入 30代の夫婦逮捕 埼玉

 私服で登校する娘が注意されて学校に入れてもらえなかったので、両親が金属バットを持って中学校に出向いたそうです。金属バットを持っていったといっても叩いたのは床だけで、あとは暴言を吐いて胸を手で突いたとのこと。
 たしかにやり方はまずいと思う。それは認める。だけど、何だろうこのいやったらしさ。モンスターペアレンツって困るよね、馬鹿じゃないの、といったコメントに対して覚える憤りって。この子はどうして制服を着なきゃならないんだ。そんなこと一体いつ誰が決めて、どうして僕達は後生大事にこんな決まりに従っているんだろう。
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