sound.

 2009年8月5日水曜日。

 Lにばったり食堂で会った。
 彼女とは大学院の同期で、入学試験も一緒に受けたし、修士課程も一緒に卒業して、博士課程にも一緒に進学した。流暢な日本語を話すので、最初見たとき日本人かと思ったけれど中国人の女の子だった。博士に進学してから、僕と彼女しか受けていない講義の最中、教授が「Lはもう結婚してるからねえ」みたいなことをさらっとおっしゃり、僕はそのとき初めてLが結婚していることを知った。研究室も違うし、僕と彼女はたまにしか会わないわけだけど、ある時見かけて、なんかお腹が膨らんでるなあと思っていると次会ったときにはベビーカーを押していた。

 そして今は子供が中耳炎で困っているという。僕が「僕も子供の頃中耳炎になった」というと、Lは「日本人はみんなそう言いますね」と答え、中国ではそんなにたくさんの人が中耳炎になったりしないし、私もなったことないから、これは日本の湿度が高い所為なのではないか、と持論を述べた。

 僕はそれを聞いて、もしかしたらそうなのかもしれないなと納得した。
 子供の頃、結構たくさんの人が中耳炎を経験しているように思う。僕は何度か患って耳鼻科へ通っていた。耳の中に綿みたいなものを詰められたりしたような記憶がある。一度夜中に痛くて泣いて、父親が行きつけの耳鼻科を起こして診てもらったこともある。でも基本的に子供は誰でもなる病気だと思っていた。

 そうか、中国ではそんなに中耳炎がないのか。


 2009年8月6日木曜日
 Jにばったり会うと明後日から9月半ばまで韓国に帰るというので驚く。恋人であるOがその頃にはトルコに帰っているから、韓国へ行くともうOに会うのは今日と明日で最後になるからだ。僕は別に韓国にそんな長く帰らなくてもいいんじゃないか、ということを言ったけれど、彼女は「仕方が無い」と淡々としている。

 何度か原爆の話題が上がる。子供の頃は酷い酷いといっても戦争してたんだから、と実は思っていたけれど、大人になってからいくらなんでもあれはと思う。戦争のことは色々分からない。本当のところ何があったのだろうか。何が本当で何が嘘で何が全く知られていないのだろう。
 オバマ大統領が来日して広島を訪ね、そして原爆の謝罪をするのではないか、ということが言われている。アメリカはまだ日本に謝罪していないだとかなんとか。僕には国家が国家に対して謝罪したりすることの意味があまり良く分からない。それは一体誰が誰に謝ることになるのだろう。それとも、そういう詳細を省いた、ややぼやけた落とし所として、つまりは呪術的な意味合いで機能しているのだろうか。

 このところニュースは押尾学とXのことで持ち切りで、事件のことは別にいいとしてエクスタシーというちょっと懐かしいドラッグの名前を見るとどうしてもイギリスのsecond summer of loveを思い出す。懐かしいとか思い出すと言っても別に僕が体験したわけではないけれど、一時期はヒッピームーブメントに派生する文化がとても好きだったので、それらがとても好きだった時期を思い出す。summer of love というのは元々68年くらいのヒッピームーブメント最高潮の時期を差す言葉で、ついで80年代の後半には、当時流行っていたレイブがイギリスに移植されてイギリス中心にsecond summer of loveが起こった。summer of love はLSDとマリファナが象徴し、second summer of love はXが象徴した。80年代後半イギリスのクラブではXで死ぬ若者が多数出て問題になっていたと思う。Xは単にハイになったり幻覚を見たりいい気分になったりするだけの薬ではなくて、人との繋がりや一体感を強く感じる好意や愛情に似たものを体験することのできるドラッグで、日本でも一時期流行っていた。僕は可能な限りピュアでクリアな状態を保っていたいから(もちろん何がピュアでクリアかなんて分からない。薬で拡張された精神活動が実は日常の精神よりもピュアでクリアーなのかもしれないし、そういうことを目的にLSDを使う人だってたくさんいる。ここでは極々常識的な意味合いで)、薬を使いたいとは全然思わないけれど、summer of loveのような波がまた来たら面白いだろうなと思う。

 second summer of loveを受けて、イギリスでは「フレーズの繰り返しを含む音楽の掛るパーティー」が違法で警察は即座にこれを解散させることができるというクリミナル・ジャスティス・アクトという吃驚な法律が出来た。今、イギリスってどうなっているんだろう。
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