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 ネットを使っていると毎日色々なニュースが画面の端からでも目に飛び込んできて、時々はやっぱりあれこれ思ったり言いたくなったりするのですが、基本的にニュースの記事が伝えている情報はある事柄の極々一部でしかないし、当事者にしか分からないことが本当にたくさんあるのだろうから、蚊帳の外から貧弱な情報を元にして何かを言うのは意味がないと思っていました。
 でも、実はニュースの情報だけで十分に判断できることもあるし、当事者が意外と気付いていないこともあるだろうし、本当は何か思ったら別にそれを口にしてもいいのではないか、と最近は思っています。

 今日『フィルム生産激減で遺跡発掘写真が大ピンチ』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090726-00000506-san-soci
という謎の記事を読みました。

 内容は「デジカメではデータを保存するCDなどの媒体が湿気などで駄目になったり、機器の変遷で将来読めなくなったりする。だから写真が重要な発掘現場ではフィルム写真を未だに使っているのだけれど、最近は生産が縮小されているのでピンチだ。幕末の写真を私達が今でも見ることができるという事実が示すようにフィルム写真の方が後世に残しやすい。」というわけの分からないものです。

 僕が不思議なのは、

・バックアップをとれば良いだけではないか?
・プリントアウトもすれば良いのではないか?
・幕末の写真ってかなりクオリティが落ちているのではないか?

ということに、取材先の奈良文化財研究所という専門家集団が気付いていないのかということです。僕も昔一度だけ新聞の取材を受けたことがあるのですが、話した内容と記事は随分かけ離れていました。だからこれも新聞の誤解かあるいは作為的な記事ではないかと思ったのです。
 それで文化財研究所にメールで聞いてみようと思ったところ、サイトにアドレスが載っていなかったので面倒になってやめました。

 大前提として熱力学第二法則よりエネルギーを注入してやらない限り絶対に系の情報は散逸する。写真は色褪せて朽ちて行く。幕末の写真が今も見れるというのは馬鹿げた話で、実際のところ撮った当時より遥かに劣化しているはずだ。僕は写真修復の技術を知らないけれど、普通のプリントした写真になんらかの修復処置を施して劣化を完璧に補うということはできない。つまり情報の散逸を防ぐためになんらかのエネルギーを加えるという手段がとれない。
 対して、デジタルデータではバックアップをとることでケアが可能だ、いくらでも同じ情報が複製可能なので、いくつかの媒体に同じ情報を保存しておき、どれかが駄目になれば媒体を交換して生き残っているところからデータをコピーすれば良い。僕達が死にいく細胞は破棄して新しい細胞を作って生き延びているのと同じことだ。はっきりいってアナログよりもデジタルの方がずっと生命に近い。どう考えても一葉の写真よりデジタルデータの方が長生きだ。

 それでもどうしても実際に紙に焼き付けられた写真が良いなら普通にプリンターで印刷すれば、最近では家庭用のプリンターですらフィルム写真より長持ちするインクを使っている。どこから見てもフィルムの方がいいという点はないと思うのです。