京都。


 春になったせいで、様々な国から新しくやって来た留学生をどこかに案内する機会が、このところすこぶる多い。観光だけではなくて、クラブもバーも、ランチを食べる場所も夜ご飯の場所も本屋も服屋も。
 そうして思うことに、京都って案内して「どうだ、ここすごいだろ」ってなる場所がないですよね。誤解のないよう先に書いておくと、僕はもう10年以上もこの街に住んでいて、京都を好きだと思う。でもそれはあくまで「なんかここいいよね」の「いい」であって、ワォって感じじゃない。ナイスだけど、別にワーってなんない。僕は行ったことがありませんが、ヨーロッパの巨大な教会だとかカッパドギアだとかタージマハルだとかを見たらきっと圧倒されると思う。でも京都にはそういうのはない。良いとか悪いとかの問題ではなしに。せめて東大寺が京都にあってくれればと思うけれど。
 加えて、街があまり商業的に発展していないので買い物に連れて行く先もないし、高層ビルもないし、本屋は丸善が潰れて跡地がカラオケになるような文化的下降状況だし。近美もなんか普通だし。だから、良いとか悪いとかの問題ではないけれどなんかどこに行ってもいまいちガイドのしがいが無い。なんというか日常とは分断された異次元の楽しみを僕はこういうときに求めたいのだけど、そういうものはこの街にはない。

 加えて、驚いたことに結構多くの人が「日本人って毎日寿司とか天ぷらとか食べてると思ってた」らしいのだけど、僕がそういう店を知らないのでメキシコ料理屋だとか普通のモダンなカフェだとかにばかり連れて行き、「日本に来て一番驚いたことは日本人が日本食を食べないことだ。良太。私は日本に来たのに寿司をまだ食べていない」と言わしめるようになった。
 でもそれがリアルな日本人の生活なのだ。加えて、京都にはほとんどの国のレストランが存在する。フレンチだろうがネパール料理だろうがハワイ料理だろうがなんだって。そして僕はハワイ料理を食べに行ったことはあっても京懐石を食べに行ったことはない。

 ただ、しばらく京都に滞在している外国人は大抵京都のことを気に入ってくれているように思う。海は無いけれどいい街です。