curve ball.

 世界ではじめてカーブボールを投げた男の話をしようと思う。この世界に、世界ではじめてカーブを投げた人間が存在することを僕はさっきまで知らなかった。言われてみれば、最初にカーブを投げた人間が存在することは当然のようにしか思えない。何だってずっと最初からあったわけではないし、誰かが試行錯誤を重ねたり、あるいはぱっと閃いたりして作ったのだ。
 世界ではじめてカーブボールを投げた男は、キャンディ・カミングスという名前だった。もちろん、この手の話には他の説が常に用意されていて、最初にカーブを投げたのはカミングスではないという人もいる。でもまあ僕としては正直なところ、カミングスだろうが他の誰だろうが構いやしない。単に僕は最初にカーブを投げた男について書きたいだけだ。そして今は定説に従って、キャンディ・カミングスという男が世界ではじめてカーブボールを投げた、ということにしておいて問題はないと思う。キャンディ・カミングス。1848年にマサチューセッツで生まれて1924年に死んだ男。彼は1867年に世界ではじめてカーブボールを投げた。

 カミングスについて書きたいと言いながら、僕が知っていることはこれが全てだ。調べれば色々な情報が手に入るだろうけれど、他のことを特に知りたいとは思わない。ただ一つだけ他に知りたいのは、まだ誰も知らなかったカーブを投げて、はじめて打者を三振に打ち取ったとき一体どんな気分がしたのだろうということだ。