月が本当に存在するということ。

 昨日「ザ・ムーン」という映画を見てきました。映画と言ってもドキュメンタリーで、見せ場はほとんどNASA蔵出しのアポロ計画を撮影したフィルムでした。一昨日たまたまこの映画の存在をネットで知ったのですが、久しぶりに「この映画は映画館で見たい」と思い、ちゃんと次の日に見に行くことができて良かったと思う。ここ3年ほど嵌っていた足枷が外れて、フットワークが戻って来たなと感じた。

 映画館で鳥肌を立てたのは本当に久しぶりだった。こういうことを書くとなんてドラマティックな映画なんだろうと思われるかもしれないですが、映画自体は見ようによっては極めて地味なものです。NHKの特番くらいのノリで捕らえるのがいいと思う。科学のことに何の興味もない、という人が見ても眠たくなるだけかもしれない。でも、少なくとも僕は40年前のアポロ計画の映像を見て心の底の方がグラグラと揺さぶられました。なんてすごいんだって。ロケットの発射も、月面のローバーも。月探査機が月周回軌道にいたアポロに向かって吸い込まれるように上昇してくる場面とか。周回軌道で待っていた宇宙飛行士は「レールの上を滑らかにすべるようにこちらへ向かってきた」と形容していた。映像もまさにその通りだった。ニュートン力学に従い、計算され的確に制御されたロケットエンジンの噴射で
月探査機は完璧な軌道で上昇した。

 後に宇宙飛行士は「なにより驚いたのはすべてが完全に決められた時間通りに正確に行われたことだ、まるでどこかに魔法の時計が仕掛けてあったみたいに」というようなコメントをしている。考えてみたらそれはそのはずだ。どのような軌道をどのような運動量で飛ぶかは全て力学的に計算されていたのだから。

 全長90メートルの巨大なロケットは、当然だけど人間がその細部まで設計して作ったものだった。素材、電気回路、コンピュータ、プログラム、制御機構、ロケットエンジン、力学的構造。40年前の科学の結晶に間違いないし、莫大な知力と労力の結晶でもある。それが轟音とまばゆい炎と共に宇宙空間へ登っていき、月に降り立って、それから大気圏を数千度の炎に包まれてまた戻って来るなんて、なんてすごいのだろう。

 このドキュメンタリーは極簡単にではあるけれど、40年前に宇宙飛行士達が月へ行ったことを追体験させてくれる。だから僕は少しの間、想像力を逞しくして月へ降り立ってみました。そのとき思ったのは意外なことだった。
 僕は月面世界の映像を見て、それから月の地表背後に小さく見える地球を見て、「一体なんなんだこれは?」と、もうひたすらそう思ったのです。あの青い星に何十億の人間が住んでいて街があって、そしてこの月には誰もいない。それどころが人類が知る限りの宇宙空間に今のところ他の生命は見つかっていない。この百何十億光年の広大な空間に、この青い小さな星が一つあってそこに僕達はいて、他のところには誰もいない。誰もいない星が数え切れないくらいにたくさんあり、そこでも岩が転がったり何かの液体や気体が流れたり昼と夜が入れ替わったりということが行われている。ただその星から空を見上げる人はいない。一体なんでしょうか、これは? もうわけがわからなくて、哲学も科学も超越した次元でわけが分からなくて、告白すると僕の脳裏をよぎった言葉は「神」だった。それは何か特定の宗教における神ではなく、単に超越者としての神だった。

 映画が進み、エンディング近くになってくると、興味深いことに宇宙飛行士達は宇宙に出て、月を歩いて、神を感じただとか悟りを開いた、全てが一つであることを強く感じた(これは地球という小さい星にみんな住んでいて循環しているという狭い意味ではない)、そういうことが一番重要なことだと言っていた。
 一昔前の僕なら確実に「なにをまた宗教臭くなって」って一蹴していたと思う。でも、今は彼らが本当にそう感じたのだろうと、全部ではなくとも理解することができるし、きっとその感覚は真実に近いと思う。西田幾多郎が「他人と自分の違いなんて、昨日の自分と今の自分程度の違いでしかない」ということを「善の研究」に書いているのですが、そういうのが今では分かるような気がする。そして、頭がおかしくなったと思われるかもしれないけれど、この世界には本当は時間は流れていなくて、それから自分と他人の区別もないんじゃないかというような気が時々しています。

 月へ行ってから40年間、僕達は何をしてきたのだろう。

 

 2009年1月16日金曜日
 夜から急遽Kの誕生日を祝う。ワインをまあまあたくさん飲んだけれど、別になんともなくて少し安心する。正月に妹の家で飲んだとき、僕は人生で2度目、大学1年生のとき以来はじめて記憶をなくしたから、すっかりお酒が弱くなったのかと思っていた。あのときは相当たくさん飲んだのだろう。

 2009年1月17日土曜日
 昼に兵庫のM君に電話して、夜に急遽鍋をすることに決める。僕の部屋はフローリングにソファとスツールで、数の上ならなんとか8人分の椅子はあるけれど、狭い部屋に大勢の人が椅子で座るとボリュームが大きすぎて圧迫感があるので冬なのに床に座ってもらうことにする。M君Sちゃんがお菓子の家セットを買ってきてくれたので(足りないものはI君がコンビニを6件回って買ってきてくれた)、お菓子の家をワイワイ言いながら組み立てて、昨日誕生日だったKもいたので彼女の誕生日ケーキの代わりにする。

 2009年1月18日日曜日
 神戸からHちゃんが来てくれたのでブーガルー仏光寺店へ行って色々と話をする。そのあと、電子パーツ屋へ寄って、セラミックのクリスタルイヤホンを仕方なく(ロッシェル塩かチタン酸バリウムが当然欲しかった)買う。それからジュンク堂へ寄って久しぶりに本を沢山買う。急いでご飯を食べて、レイトショーの「ザ・ムーン」をSちゃんと見に行く。