front passenger seat.

 ピカピカに磨いたヤカンの表面に写り込んだ虹は、本物よりももっと曲がっていて、でもそういえば虹って実体なんてないんだよな、あの鳥、まだあの辺をグルグルしてるのね、一体いつまで同じところを飛ぶつもりかしら、それは僕にも分からない、きっと何かを探しているんだよ、何かって食べ物? それも僕には分からない、鳥だって食べ物以外の物を探すことがあるだろうし、そうね鳥だっていろいろなものを探すわよね。鳥が好きなんだ。私も。
 冬は一歩だけ足を下げて、それでも秋の上から覆い被さるみたいにこの街を窺っている。僕達はまだシャツの上に軽いジャケットを羽織っただけで、彼女はまだまだこれで十分だと言って、でも夜になるときっと寒い寒いと言うのだろう。
 ねえ、新しい音楽買わなくていいの? 大丈夫だよ、別に音楽なんていらないんだから、例の高いヘッドホンなくしてから、口笛と鼻歌で十分だし、それに部屋に音楽なんて流れていなくていいことにも気が付いたから。どうせもう右側のスピーカーもぶったたかないと音出ないし。
 向こう岸に見える明かりと薄ら曇り空にちょっとだけ見えてる星、飛行機の飛ぶ早さを見比べて、それから僕は軟らかい部分に触れる。見損なったクラシックバレエのステージと見ることをやめることに決めたクラシックバレエのステージ。代わりにじゃあ秋の晴れた休みには。
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