spider, looking for something.

 2008年10月9日木曜日

 Tと遅めのランチを取り大学へ戻ると、Oが「さっき大きなクモがいた」と言って自慢の一眼デジカメで撮った写真を見せてくれた。どうやらプラスチックのカップで捕まえたらしい。大きなクモというから、見るまでもなくアシダカグモだろうと思ったけれど、やっぱりそうだった。

 僕は昔クモが苦手でした(今も得意というわけではありません)。子供だから虫はだいたい平気だったけれど、クモは手で掴んだりできなかった。小学校1年生の頃、僕はまだ名古屋に住んでいて、公園の裏山みたいなところで大きなクモが張っている巣に出くわした。そこは丁度斜面で、僕達は斜面の下に行きたかった。友達は平気な顔をしてクモの巣と斜面の下へ入り込み、傾斜に寝転がる感じでずるずると滑り降りていった。当時の僕にとって大きなクモがいる巣の下を、しかも巣にギリギリで通るなんてとても勇気のいることだった。上を通るならまだしも、下なのだ、いつでもクモは僕の上に落ちてこれる。
 僕はびくびくしながらそこを通った。見なくていいのに通過するとき真上にいるクモを見上げて。
 今から思えばなんてことない話ですけれど。すこしインパクトのあるクモを見るとそのときのことを必ず思い出す。それとK君が大きなジョロウグモを手にしても全く平気だったこととか。

 アシダカグモは日本の至る所にいるクモなので、特に珍しいものではありません。だけど、カやハエのようにそんなにいつも見掛けるわけでもないので、初めて見るとショックを受けるかもしれません。「日本にこんな大きなクモっていていいのか?」と思うようなインパクトがあるし、一人暮らしの女の子が部屋の中でアシダカグモに遭遇して気絶するというようなことがあっても不思議ではないと思う。記憶の中で大きさは増長し、実際にはそこまで大きくなかったとしても、友達に話すとき「手の平くらいの大きさだった」って言ってしまうと思います。

 さて、アシダカグモはゴキブリを食べるので益虫だと言われます。毒グモじゃないし、性格もおとなしいし、クモの巣も張らないし。もちろん、部屋にいたら怖いのでゴキブリとどっちもどっちかもしれませんが、少なくとも悪者ではないです。もしかしたら「こんな形だから人間には足蹴にされるけれど、どうにか仲良くなれないものかなあ」なんて思っていないとも限りません。人に見つかって悲鳴を聞いたとき「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ、すぐに引っ込むから、だからそんなにびっくりしないで」って思っていないとも限りません。
 大人になって、虫がちょっと怖くなって、だけどときどき彼らがどういうことを考えているのかと思います。彼らには彼らの営みと世界と守るべきものがあって、それをもう少しは尊重してもいいのかもしれないなと最近思います。カフカの「変身」ってどんな終わり方だっけな。