No5.012.

「see ya」と言って、スカイプでシアトルの彼女と話をしていた二ノ宮がこっちへ戻ってきた。二ノ宮のガールフレンドはドイツ系アメリカ人の女の子で、半年前まで京都に住んでいたけれど、留学期間が終わってシアトルへ帰ってしまった。国をまたいでの遠距離恋愛なんて実にヘビーだなと思うけれど、今のところ二ノ宮の口から弱音が出たことはない。
「ごめんごめん、ちょっと長くなっちゃった」
 二ノ宮はIBM thinkpad x300からヘッドセットを外した。
「ほんとに長いこと。ハイディ元気って?」
 イクちゃんが読みふけっていた今月のカーサ・ブルータスから顔を上げる。僕のだけど。
「元気。デトロイトに引っ越して妹と暮らすかもって」
デトロイトって自動車産業の街だっけ?」
 美加子が社会科で習ったような杓子定規なことを言うので僕は言った。
「データが引っ越すことになってた街で殺人率が高くてモータウンの街だよ」
「なにそれ?」
グーニーズ
 僕の代わりに二ノ宮が答えた。
 グーニーズは僕がもっとも好きな映画の一つだ。1985年のアメリカ映画で、監督はリチャード・ドナー、製作はスピルバーグ。子供達が海賊の宝の地図を見つけてそれを探しに行くというのはありがちな物語に見えるけれど、実はそういった話はそんなにゴロゴロしていない。映画の後半は洞窟探検だ。この映画をはじめて見たとき僕は小学生だった。僕は友達と探検できそうな場所を探しては毎日のようにグーニーズごっごをして遊んだ。下水だの古い防空壕だの廃墟になったマンションだの、暗くて人気のない所へはどこにでも入り込んだ。
 二ノ宮もこの映画のことが好きだった。僕は小学生の時も京都に住んでいて、その頃二ノ宮は滋賀に住んでいたので、当然僕達は完全なる赤の他人だった。でも、場所は違えど彼は彼で僕と同じようなことをしていたらしい。僕が豆塚のことを二ノ宮に一番最初に言ったのにはそういう理由もある。はじめてグーニーズを見たときからもう20年近くが経ったわけだけど、僕達はつまるところ本当にどこか誰も知らないような、謎に満ちた場所を探検してみたいと思っているわけだ。
「面白いから一度見てみるといいよ。持ってるから貸すよ」
「まあ、そのうち見てみる。それより映像見せてよ」
「はいはい」
 8月31日に僕達は野外パーティーを計画していた。これまでも何度かパーティーはしてきたけれど、どれも場当たり的というかいい加減極まりないものだったので、今回はきちんと考えてやってみようということにした。それで今日は当日流す二ノ宮が作った映像を全員で見てみようということで集まった。
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